研究課題/領域番号 |
20K01843
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
朴 泰勲 関西大学, 商学部, 教授 (50340584)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自動車部品メーカー / 知識の相互補完性 / 探索的開発 / 深化的開発 / 両利き戦略 / アーキテクチュラル知識 / ドメイン知識 / 特許と科学論文 |
研究実績の概要 |
自動車部品メーカーの知識マネジメントはイノベーションの成果に大きく影響を及ぼす。先行研究では、探索的開発と深化的開発が成功するためには、部品メーカーが有する知識の相互補完性(complementarity)が重要であるとされてきた。知識の相互補完性は相違性の高い知識を効率良く組み合わせることによって生まれる。 しかしながら、先行研究は、両利き戦略を実現するため、探索的開発と深化的開発のバランスを維持しながら、知識の相互補完性をどのようにマネージすれば良いのかについてはあまり注目してこなかった。企業が実用的な知識(特許知識)と科学的知識(科学論文)の中から、異なる知識を単純に組み合わせるだけでは、効率よくイノベーションを実現できない。なぜならば、異なる知識を組み合わせると、ポジティブな効果だけではなく、ネガティブな効果も発生する可能性があるからである。そこで、本研究は知識の補完性を高めるため、知識をアーキテクチャ知識とドメイン知識に分け、これらの知識のバランスを維持することによって部品メーカーが探索的開発と深化的開発のバランスを維持でき、イノベーションに正の成果をもたらすことを明らかにした。つまり、知識のドメインレベルで異なる特許知識と科学論文の知識を組み合わせることと、技術のサブメインレベルで特許知識の組み合わせと科学のサブドメインレベルで科学知識の組み合わせをバランスよく進めることが両利き戦略を進める上で重要である。その理由は異なる知識を組み合わせて知識の相互補完性を高める際に、異質的な知識同士の組み合わせによるポジティブな効果とネガチブな効果を効率よく管理すると、両利き戦略の成果が向上するからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
特許と科学研究の相互関連性に関する論文のデータ入力が終わり、データ分析も完了した。しかし、自動車部品メーカーによる自動運転の技術開発に関する調査において依然としてコロナの影響によりアセアンと中国の現場調査ができなかった。一方、文献調査は計画通りに進展した。その理由は、2021年は電気自動車の販売が大きく伸び、自動運転と電動化が急速に進展した年でもあり、車の電動化に関する文献の出版が増えてきたからである。自動車の電動化により、自動車産業への新規参入が増え、自動車産業は異なる製品アーキテクチャを持つ自動車同士が競争する時代へ突入した。電気自動車の普及により、自動車産業以外の産業から電気自動車の開発と生産へ参入するケースが増えた。アセアンでは、ベトナムのビンファスト社がベトナム初の電気自動車の生産に成功した。また、タイでは台湾の鴻海精密工業が工場を建設し、電気自動車の受託生産事業に参入した。スマートフォーンやパソコンなどの受託生産を手掛けてきた同社は、電気自動車のスマートフォン化を見込み、自動車生産の委託事業に着手した。また、インドネシアでは、韓国の現代自動車がアイオニック5を生産し、アセアン市場全体への輸出を図っていることが明らかになった。現地調査は進んでいないが、文献調査の結果によれば、アセアンでは電気自動車の開発と生産が次第に進展していることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
特許と科学技術に関する研究は、仮説の完成度も上がり、論文を海外のジャーナルへ投稿できる段階まで来ている。海外の共同研究者と現在Zoom会議をしながら、論文を書いているが、コロナが収まれば、海外の現地調査も行い、論文の完成度をさらに高めていくつもりである。また、これまでは特許と科学技術に関する部品メーカーの研究開発における知識の相互補完性について調べてきたが、次年度は電気自動車と関連する特許の出願と自動運転に関するデータを集め、統計分析を行う予定である。さらに、AIによる自動運転と自動車の電動化に関する調査があまり進展していないが、次年度では国内の部品メーカーとのインタビュー調査を積極的に進めていく計画である。近年、テスラをはじめ、電気自動車の開発に手がけている自動車メーカーの多くはAIによる自動運転と自動車の電動化を積極的に進めているものの、半導体不足とサプライチェーンの問題により、一時的な生産停止に追い込まれている。そのため、コア部品は内製や国内生産へシフトしつつある。今後、アセアンから国内へコア部品の生産基地をシフトさせている日本企業について調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響により海外出張ができなくなったため、予算額の中に現地調査に割り当てた部分を使用できなかった。次年度はコロナによる移動規制が緩和される見込みであるため、予算の大部分を消化できる見通しである。また、データ収集と入力にアルバイト作業が必要となるため、予算を使用できると考えられる。さらに、データ分析用の高性能のパソコンを購入する予定である。
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