研究課題/領域番号 |
20K01852
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
目代 武史 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (40346474)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | リアルオプション思考 / 環境技術 / 電動パワートレイン / 設計ルール / 不確実性 |
研究実績の概要 |
本年度は研究計画に従い、第1に、戦略的柔軟性を実現するための前提となる実物資産へのオプション構造の織り込みに関する研究(オプション構造化プロジェクト)に取り組んだ。トヨタ、日産、フォルクスワーゲンといった大手自動車メーカーのパワートレイン電動化を分析材料として、各社の製品アーキテクチャの構造がリアルオプションの観点からどのように位置づけられるかを二次情報を用いた事例研究により分析した。その成果は、Mokudai, T. (2020) “Strategic flexibility in shifting to electrification: A real options reasoning perspective on Toyota and Nissan,” International Journal of Automotive Technology and Management, 20(2), 137-155. として国際ジャーナルに掲載された。また、目代(2020)「車両プラットフォームと戦略的柔軟性」『自動車技術』74(9), 16-21. が自動車技術会の専門誌に掲載された。 第2に、企業において電動パワートレインの選択に関わる経営者や技術者が各パワートレインの現在価値と将来価値をどのように評価し、オプションの行使(ないし廃棄)の判断をいかに下すかに関する研究(組織認知・行動プロジェクト)に関しては、基本文献を精査するとともに、最新の学術論文の収集整理を行っている段階である。組織における戦略的意思決定に関しては、従来からの規範的な意思決定論に加えて、心理学の知見を取り入れた行動意思決定論が台頭してきている。意思決定者の不確実性やリスクへの反応、判断や行動におけるバイアスは、リアルオプションの行使において重要な示唆を持つと考え、これらの文献のレビューに取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、国際ジャーナルに1本(査読付き)、業界専門誌に1本(招待論文)、図書1冊(1つの章を分担執筆)の成果を発表できたが、新型コロナウイルス感染症の影響で(1)企業調査の実行および(2)研究時間の確保の面で障害が生じた。 第1に、環境技術(電動パワートレイン)の選択に関して、自動車メーカーおよび主要部品メーカーに対して予備的なヒアリング調査を実施予定であったが、新型コロナ感染症への対応のために企業訪問はもちろん、オンライン面談の実施も困難となった。 第2に、学内においてもオンライン授業への移行、新たな講義方式に適した授業コンテンツの作成、その他学内外における新型コロナ感染症に関わる各種対応に追われ、予定したエフォートの確保が困難となった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も引き続き、企業の対面訪問を伴うフィールド調査の実施には困難が伴うと予想される。したがって第1に、オプション構造化プロジェクトについては、二次データを用いた分析を続ける予定である。とりわけ特許データを用いた分析に取り組み、環境技術への研究開発投資と経営的意思決定にかかわる不確実性をどのように構造化しているのかを考察していく。 第2に、組織認知・行動プロジェクトについては、行動意思決定論を中心に先行研究の精査を続け、分析枠組みの構築に取り組む。これと合わせ、年度後半には自動車メーカーとの遠隔ミーティングによりヒアリングを実施する予定である。 第3に、以上の研究経過を取りまとめ、国内外の学会(組織学会、日本経営学会、Gerpisaなど)での研究報告を行い、学界からのフィードバックを得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症による影響により移動を伴う調査および学会参加が中止ないしオンラインとなったことから、調査旅費の執行ができなかった。また、その他経費として予定していた論文英語校正サービスについては、別の予算から捻出できたため、本科研予算からの支出を節約することができた。 2021年度においては物品費の執行は計画通りとなる予定であるが、企業調査や研究打ち合わせについては、オンライン会議が中心となるため旅費の執行は予定よりも小さくなると考えられる。浮いた分の予算は、特許データベースの使用料や統計分析ソフトなどに振り向ける予定である。
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