研究課題/領域番号 |
20K01855
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研究機関 | 長野県立大学 |
研究代表者 |
東 俊之 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 准教授 (20465488)
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研究分担者 |
宮下 清 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 教授 (50239399)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 伝統産業地域 / 地域特性 / 伝統性 / 協働(コラボレーション) / コラボレーション基盤 / 地域アイデンティティ |
研究実績の概要 |
本研究の主目的は、伝統産業地域の特性を考慮した、創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法を探求することである。そのために、①伝統産業地域における地域特性の差違はどのようなものか、②伝統のマネジメントによる地域アイデンティティの醸成方法はどのようなものか、③創発的コラボレーション基盤の構築やマネジメントはどのようにすればよいか、を検討する。 初年度の本年度(2020年度)は、次年度以降に本格的に実施する実証研究の分析枠組みを構築するための理論研究を中心に行った。主に「地域特性」や「地域アイデンティ」といったキー概念を、地域協働論や地域産業論、伝統産業論だけでなく、地域社会学や地域コミュニティ論などの関連分野も含めて広く検討した。その結果、仮説の域は出ないが以下のように説明できると考えている。 まず伝統産業地域の特性については、産地形成の経緯から、①藩や県の政策などの「政策的特性」、②原材料産地や風土などの「地理的特性」、③農村部や都市部といった「生活的特性」、④需要地に近接した地域での発展などの「市場的特性」の4つの軸から区分でき、さらにそれらを動態的に分析することで、各地域の差異があきらかになるのではないかと考えた。 次に、地域アイデンティティが創発的コラボレーション基盤を構築するために必要だが、「地域のアイデンティティを形成すること」と「地域に対する個人のアイデンティティを形成すること」の両方が不可欠であると考察した。そのためにイベントの実施が有効な手段と言えるが、伝統産業従事者だけでなく他の地域主体を巻き込んだ活動が不可欠であるとのではないかと考えるに至った。そして、この問いを検証すべく、伝統産業地域(燕三条地域など)における「オープンファクトリー活動」の予備的調査を行っている。なお、この研究成果は、2021年7月又は10月の学会にて発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず理論研究に関して、関連する書籍の購入、論文等の収集は順調に進んでいるが、コロナ禍による学務業務の負担増加、オンライン授業化への対応等に多くの時間を取られたため、十分な文献調査が行えなかった。伝統産業地域の特性の検討や、地域アイデンティティの概念の検討についてはある程度できたものの、網羅的に関連諸科学の先行研究に目を通せているとは言えないと考える。加えて、本研究の中心テーマである「創発的コラボレーション基盤」については検討することができていない。次年度にあらためて取り組みたいと考えている。 また実証研究の面では、当初5地域程度を対象に複数回に分けて調査出張を予定していたが、前述した学務業務負担増、教育業務負担増に加え、出張制限がかけられたため、当初予定通りの調査旅行には出かけられず、1ヵ所のみの調査しか実施できなかった。そのため、実質的に半年程度の遅れが生じていると思われる。 さらに、数度の学会発表も予定していたが、学会の中止や日程変更、オンライン化によって、研究報告することが実施できなかった。次年度(2021年度)は数度の学会発表を予定しており、研究成果を広く公表したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず理論研究であるが、次年度(2021年)は、これまでの遅れを取り戻すべく、キー概念の整理を精緻に行っていく。特に仮説としてあげた伝統産業地域の特性要因(①歴史的特性、②地理的特性、③生活的特性、④市場的特性)が妥当であるかを、これまでレビューしていない関連する他の学問分野の先行研究を検討ることで深化させたい。加えて、本年度は十分に検討できなかった「創発的コラボレーション基盤」についても研究を進めたい。特にエンゲストロームの「ノットワーキング」の概念を今一度考察したいと考えている。 また次年度は、当初の予定では実証研究に重点を置いて研究を行う予定であった。しかし、現在の新型コロナウィルス感染症の状況により変更をせざるを得ないと考えている。10~15地域程度の様々な地域主体に対するインタビュー調査(詳細調査法)を実施する予定であったが、あまり物理的な移動を伴わないように、本務校(長野県)所在地とその近隣各県(甲信越、北陸地方)を中心とした調査を行う。場合によっては、オンラインでのインタビュー調査やアンケート調査を中心に実施する必要が生じるかもしれないので、準備を怠らないようにした。 さらに次年度中に、これまでの研究成果を、学会報告、学術論文、専門書籍として広く社会に公表する計画である。既に伝統産業地域におけるオープンファクトリー活動については学会報告の予定をしているが、伝統産業地域の地域特性や創発的コラボレーション基盤についても学会発表や学術論文としての発表を検討したい。 加えて本研究課題の最終年度である2022年度では、実証研究の深化を行うとともに、研究成果を広く公表することを考えている。特に、「創発的コラボレーション基盤のマネジメント」の側面に着目した研究成果を、専門書籍の刊行などによって社会に還元したいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、直接経費のうち「旅費」に38万円を計上していたが、コロナ禍による学会のオンライン化、調査出張の制限等により、あまり出張旅費の使用ができなかった。次年度(2021年度)は新型コロナウィルス感染症の状況にもよるが、本務校(長野県)とその近隣地域を中心に、本年度よりも多くの調査出張を行いたいと考えている。またインタビュー調査にかかる「人件費・謝金」が発生しなかったことも、次年度使用額が生じた理由の一つである。 また「物品費」は、ノートパソコンの購入、必要書籍の購入などで使用したが、書籍については、手持ちの書籍の精読や学術論文の精読に時間を費やしたために当初の予定よりも少ない冊数の購入に留まった。次年度は、関連する他の学問分野の学術書を幅広く収集する予定であるので、本年度よりも使用金額が多くなると考えている。 さらに「その他」の金額については、当初は学術論文の複写やアンケート調査に係る通信費等で必要になる事を想定していたが、本年度中にアンケートの実施ができなかったため、そこまでの費用が発生することはなかった。次年度は、文献複写ならびにアンケート調査通信費でより多くの費用を使用する予定である。
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