研究課題/領域番号 |
20K01879
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
白石 弘幸 金沢大学, 経済学経営学系, 教授 (60242707)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | オープンファクトリー / 企業ミュージアム / 食品メーカー / ブランディング / ホスピタリティ / 人的資源 / 口コミ / 実体験 |
研究実績の概要 |
事前設定のリサーチクエスチョンを解明するために口コミ形成に関する文献渉猟を行った。また食品メーカーが運営する現実のオープンファクトリーに対する事例研究を行った。 文献渉猟では特に口コミの発信動機を調べて整理した。当該動機として、実体験にともなう興奮の発露、良好な人間関係維持に資するという心理、他者を正しい意思決定に導きたいという配慮や互助意識、面白いことや発見した秘密を他者に伝えたいという伝達と暴露の欲求、特別な関心を持っており他者にその商品のことを話すのが楽しみ、その他があるという知見が得られた。 現実のオープンファクトリーに対する事例研究では、株式会社母恵夢の「スイーツパーク東温本社工場」、ガトーフェスタハラダ(株式会社原田)の「シャトー・デュ・エスポワール」等を訪問し生産開示の方法等を実地調査し把握した。加えて、これらと企業ミュージアムである味の素株式会社の「食とくらしの小さな博物館」、日清食品株式会社の「カップヌードルミュージアム大阪池田」との比較分析を行った。このような事例研究により、オープンファクトリー等の施設で楽しい経験、満足度の高い実体験を提供できれば、その個人におけるブランディングに作用するのに加え、その興奮、感動や感激をした体験を他者に話さずにはいられないという口コミ発信のきっかけを与えることにもなるという知見を得た。 すなわち研究実績として、1)口コミの発信動機には興奮がある、2)興奮や強い印象を付与するためには実体験を与えることが大切である(興奮の重要契機・要因としての実体験)、3)実体験により快い興奮、感動や感激を与えるためにはホスピタリティが必要である、4)事例研究の対象施設ではホスピタリティと施設自体のインパクトにより口コミが活性化している、5)ホスピタリティ形成上、気配りのできる人的資源の存在と配置が重要である、という知見・示唆が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍において研究方法の一部変更を余儀なくされたが、食品メーカーの施設を訪問し実地調査を行うことでオープンファクトリーの運用に関する新しい知見が得られた。来場者ヒヤリングの代替としてトリップアドバイザー等の口コミサイトを精査することで、コーポレートブランドへの言及を含む好意的口コミ活性化の仮説的要因として施設自体のインパクトと人的資源によるホスピタリティも導かれた。 当該知見は、事前設定したリサーチクエスチョンのうち「食品メーカーのオープンファクトリーでどのような公開がなされ、いかなる体験プログラムとホスピタリティ、経験価値が提供されているか」「オープンファクトリーと関連して食品メーカーの製品、ブランドに関するどのような口コミが形成されているか」「どのような見せ方、開示事項、ホスピタリティ、体験プログラムが当該企業の印象とブランドイメージの改善、好意的口コミ形成に特に強く作用しているか」と密接に関係する。そして主問題「食品に関するブランディングが一部メーカー設置のオープンファクトリーでどのように行われているか」を最終的に解明するうえで重要な知見である。 初期段階の研究成果のとりまとめと発表も4本の単著論文で行った。すなわち本課題で収集した文献や資料に対するレビュー、オープンファクトリーに対する実地調査により得た知見をもとに「日中韓の食品メーカー三社における人的資源の組織理念」(ERINA REPORT PLUS,155号)、「食品メーカーのダイナミック・ケイパビリティとコーポレート・コミュニケーション:味の素社と日清食品社を事例に」(金沢大学経済論集、41巻1号)、「日中韓たばこメーカーの人的資源とD&Iに関する組織理念」(日本海域研究、52号)、「組織の口コミとホスピタリティを生む人的資源:食品メーカーの体験型ブランディング」(金沢大学経済論集、41巻2号)を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本課題遂行者自身の安全にも十分留意しつつ、食品メーカーのオープンファクトリーのうちコロナ禍でも平時に比較的近い形で稼働・公開中の桔梗屋信玄餅工場(山梨県)、おやつカンパニー久居工場(三重県)、お菓子の城那須ハートランド(栃木県)、その他を訪問し、好意的口コミを刺激するうえで施設自体のインパクトとホスピタリティを生む人的資源が重要であるという仮説的知見を検証する。またオープンファクトリー設置の目的、運用と公開において意識していること、教育研修の内容などファクトリーに配置している人的資源の育成方法に関し、施設運営者側に対するヒヤリングを行い、ブランドへの言及のある好意的口コミが活性化している食品メーカーのオープンファクトリーに関する特徴、そこにおける人的資源の育成・配置・活用の在り方を探究する。 ファクトリーにおける開示のあり方、開示状況も、より厳密に捉える予定である。具体的観点として、調理加工室・容器洗浄室とエアシャワーおよび保管冷凍庫の位置表示など工場レイアウトの開示状況、各室内・庫内の設定温度開示状況、機械設備と各ラインが担う機能・役割の当該設備・ライン付近およびこれらが見える窓への表示状況、リサイクル・リユース・リデュースのいわゆる3Rとゼロエミッション、太陽光発電への取り組みの開示・訴求状況、従業員の検便など健康検査と頭髪落下防止等ユニフォームの工夫に関する紹介のあり方、ISO14001取得と実施に関する説明のあり方、HACCPの取得と実施に関する開示・訴求状況、X線検査と重量チェック、金属探知など品質検査・管理上の取り組み紹介状況、機器・容器の洗浄後菌数検査および衛生講習会の実施など衛生管理に向けた取り組みに関する説明状況を考えている。 コロナ禍で工場公開に関する安全性をどのように確保しているかも調べる。すなわちオープンファクトリーにおける危機対応力も視点に加える。
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