本研究は共英製鋼株式会社を事例として,外資鉄鋼企業のベトナム進出の過程を明らかにした。1990年代末,巨大高炉企業でなく中堅電炉企業であった共英製鋼が,ベトナムが必要としていた技術と製品を提供して進出に成功した。しかし21世紀になると,電炉システムを有する共英製鋼は,ベトナムでは小型高炉一貫システムや誘導炉システムを用いた地場企業の挑戦を受け,傑出したシェアを獲得できなくなった。途上国での事業を論じる際に,先進国企業の技術・生産システムが途上国より優れていると決めてかかってはならない。途上国での事業は,あくまでも当該国の要素賦存条件や需要条件に適合した場合に,初めて成功するのである。
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