研究課題/領域番号 |
20K01910
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研究機関 | 大阪経済大学 |
研究代表者 |
伊藤 博之 大阪経済大学, 経営学部, 教授 (20242969)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 3M / オーガニゼーショナル・ビカミング / オーガニゼーショナル・ヒストリー / 経営史 |
研究実績の概要 |
本研究は、米国の総合化学メーカー3M(スリーエム)社を事例として、「オーガニゼーショナル・ヒストリー」及び「オーガニゼーショナル・ビカミング」の理論的観点から、同社の社内資料を発掘・分析するプロジェクトである。オーガニゼーショナル・ヒストリーやオーガニゼーショナル・ビカミングは、組織論の新しい理論であるとともに、経営学における、いわゆる「実践論的転換」を反映した新しい組織の存在論を提示する研究分野である。一方、当該の研究分野では、実証研究が決定的に不足していることが課題とされてきた。 こうした背景で、経営学において「イノベーションの経営」のモデル企業とされてきた3M社を実証研究の調査対象事例として取り上げることで、新たな研究展開を図ることが本プロジェクトの独自性となる。そのために、米国ミネソタ歴史協会に寄託された同社社内資料の発掘・分析を実施することも当初の計画であった。しかし研究期間がコロナ発生・流行と重なり、当初計画の中心にあった米国調査は事実上不可能となった。そこで研究に次のような修正を加えた。 本研究の予備調査で収集した資料、特に、事前調査の段階でミネソタ歴史協会で収集した同社の創設以来の有価証券の分析を研究の中心に据えることした。現時点での主たる発見事実としては、3M社がイノベーションを経営の基軸とする原点には、同社の基盤が世界恐慌の影響下で形成され、主力事業の売上減を補うための多角化の必要性が高かったことや、同社がイノベーションという概念を公に使用し始めたのが1980年頃でその時期に成長の鈍化が見られたこと等が、有価証券の分析から分かっている。また、理論的フレームワークに関しては、統治の観点からの論考を展開し、それについての論文執筆や学会報告を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の事前計画段階で研究活動の中心として想定したのは、米国ミネソタ歴史協会に寄託された3M社の社内資料の現地調査であり、当該資料を発掘しながら詳細な経営史的記述を進めつつ、オーガニゼーショナル・ヒストリーやオーガニゼーショナル・ビカミングの観点から分析を進めることであった。しかし、2020年4月に始まる研究期間がほぼそのままコロナの流行期と重なり、米国調査が事実上不可能となり、研究計画に次のような変更を強いられた。 まず、理論的分析視角はそのままに、国内で入手できる資料や過去に収集した資料を利用しつつ、同社の有価証券の分析に研究の焦点を移動させ、財務データの分析などの新たな視点も追加することとした。また、当初、コロナの流行が1年程度で終息することを予測し、文献収集等についての作業や支出を前倒しして実行し、調査旅行を研究助成期間後半に集中させることを予定した。しかし終息の兆しが見えたコロナの流行は、その都度、変異種の出現により予想外に継続し、繰り返し計画の再調整が強いられた。また、研究方針の調整に伴い、定性分析のソフトを導入し試行をおこなったことや財務データの分析を追加したことで、財務データの作成やソフトの操作への習熟等にも時間を要することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
コロナの流行により米国調査が困難になったため、当初計画から視点を若干移動させ、3M社の社内資料を発掘し詳細な経営史を描くのではなく、3M社の歴史を複数の段階に区切り、それぞれの期間の概要に理論的な考察を加えたシリーズの論文を執筆することを今後の基本方針とする。 すなわち、①3M社の中興の祖であるウィリアム・マックナイトの経営期、②イノベーションの経営を標榜する同社の成長期、③1990年代に組織の成熟が進む3M社の経営、④2000年以降の資本主義の変化(金融資本主義の進展)の影響を受けた同社の経営のファイナンシャライゼーション(金融化)の4期間の分析を実施する。それぞれに関して、経営陣の編成や昇進経路、ガバナンス体制の変化、社外の経営イデオロギーの変化、財務データの分析を駆使しならら、オーガニゼーショナル・ヒストリー及びオーガニゼーショナル・ビカミングの観点からの考察を試みたい。 なお、2023年度は、コロナの影響も低下しつつあり、米国での調査も不可能ではないが、3M社の資料調査を単年度で終えることは困難であり、以上の課題に取り組むことで本研究プロジェクトを引き続き進めていていきたい。 以上の研究方向の修正により、3M社の資料発掘や詳細な経営史の記述は、当初の見込みのように進めることはできなくなるが、財務上の影響や社外の経営イデオロギーの影響等を分析に組む込むことが可能となり、オーガニゼーショナル・ビカミングの理論的な考察については、予期しない洞察が得られる可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の当初計画の最大支出項目は、研究助成期間中毎年1か月程度の予定で米国を訪問し、ミネソタ歴史協会で3M社に関する社内資料調査のための旅費と滞在費であった。 しかし、コロナの流行により、海外への調査旅行の実施は困難となった。その間、米国での調査計画を先送りし、その分、文献資料を前倒しで集中的に収集し、文献の読解を進める等の措置により、研究期間全体で予算や研究執行を適切に実施するための対応策をとってきた。しかしコロナの流行は、時に終息の兆しを見せつつ、その都度、変異種が出現してコロナの終息が見えたのは今年(2022年)度の後半となった。 以上の事情により、計画した米国への旅費と滞在費関連の予算が大きく残ることとなった。旅費に予定していた予算の一部は、研究方針の調整により定性的データの分析ソフト購入等に振り向けたが、当該の旅費分の余剰金は依然として大きく、プロジェクト終了時に返還する予定である。
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