本研究は、日本企業における中期経営計画のコンテンツに焦点を当て、その内容がどのような特徴を持つのか、またどのような特徴を持つ中期経営計画を策定する企業が好調な業績をあげているか、を実証的に研究している。本研究の試みは、戦略計画論が下火になる中、戦略計画論を、その後の戦略論研究の進展を踏まえてコンテンツ側面から再考する試みと言える。特に企業変革という動態的な視点であるダイナミック・ケイパビリティの論理も援用しつつ、戦略計画をいかに企業変革につなげるかについての意欲的な取り組みでもある。 初年度は、大和ハウス工業を取り上げた実証研究をおこない、翌年度の2021年度にはその取り組みを家電業界という業界単位への分析へと拡張した。本年度は、その分析対象を製造業全体に広げ、中期経営計画のコンテンツの特徴把握と業績との関連性の分析を実施した。 製造業を対象とする分析結果ならびに考察は、2022年度に開催された日本経営学会において発表され、活発な議論が行われた。その内容の概要を述べると、製造業112社の中期経営計画は、全体としては、ポジショニング論的な視点、資源ベース論的な視点、さらにはオペレーショナルな視点は多く散見されたものの、企業変革にとって特に重要視されているダイナミック・ケイパビリティ的な視点の内容は相対的に低かった。また明確な統計的有意性は見いだせなかったものの、ダイナミック・ケイパビリティ的視点を含む中期経営計画の方が、企業の事業規模拡大に寄与する可能性、またそれがポジショニング論的な視点と相まった際にその傾向が強くなることなど、実務にとって興味深い発見事実があったと同時に、動態的な戦略計画論のあり方について一定の知見を得ることができた。
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