研究課題/領域番号 |
20K01935
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
延岡 健太郎 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (90263409)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アート思考 / 暗黙化 / デザイン思考 / SEDAモデル / 魂動デザイン |
研究実績の概要 |
令和2年度に計画していたSEDAモデル(Science, Engineering, Design, Art)の理論化と定性的研究を実施した。 (1)SEDAモデルの理論化:令和3年度に、SEDAモデルの中でも特に重要と考える「アート思考」に関する理論化を大きく進めることができた。その特徴として5項目を明確化することができた。それらは、1)哲学・思いの表現(Expression)、2)ニーズを超えた感動(Emotional Impact)、3)アイデンティティ・歴史(Identity)、4)超絶技巧(Craftsmanship)、5)妥協しない強い情熱と執念 (Passion)である。 次に、アート思考の概念を構築しつつ並行して行った実証研究から、その結果をまとめた著書を出版することができた。アート思考の象徴的な事例であるマツダ株式会社の「魂動デザイン」に焦点を当てた。日経新聞出版社から2021年1月に「アート思考のものづくり」として出版した。日経新聞や週刊東洋経済など、いくつかのメディアでも好意的な書評と共に取り上げられ、研究結果の社会への還元も進んでいる。 そこでは、特に、ユーザーに迎合するのではなく、作り手がデザイン哲学を表現する重要性を強調した。加えて、中途半端に終わることなく、ユーザーが感動するレベルまで、執念と情熱をもち、決して妥協することのないマネジメントが必須である点も明確にできた。更には、SEDA人材を育成するための、条件やプロセスについても、議論することができた。特に、工学部の中でも、商品開発に重要な機械工学科などは、SEDA人材教育に長けた建築学科から学ぶべきであろうと強調した。 本プロジェクトの1年目としては、計画以上の実績に結びついたと自負している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和2年度に計画していたSEDAモデル(Science, Engineering, Design, Art)の理論化と定性的研究を実施したが、研究実績の概要でも書いたように、令和2年度中の2021年1月に、それらを包括した著書「アート思考のものづくり」を日経新聞出版社から出版することができたのは、期待以上の進捗状況であった。コロナ禍で、国内外の出張や、フィールドスタディが限定され、移動などの時間を節約できるリモートによる聞き取り調査を効率的に進めることができた。加えて、それにも関係するが、様々な調査の実施を効率的に行うとともに、執筆活動に時間を費やすことができたことが、計画以上に迅速にアウトプットを出すことができた理由である。 更には、魂動デザインで、世界から高い評価を受けているマツダ株式会社から期待以上に全面的な協力を受けることができたことも、計画以上に研究が進んだ要因である。広報部門とトップマネジメント(特にデザイン担当の常務執行役員)から本研究の社会的意義に賛同してもらい、多くのフィールドスタディをリモートと対面で実施することができた。コロナ禍が東京と比べれば多少は軽い広島にマツダの本社があり、工場での調査も数回は実施できた点も幸運であった。
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今後の研究の推進方策 |
SEDAモデルとアート思考の概念的なフレームワークは完成したので、令和3年度からは、理論的には思考的、哲学的な深堀りを実施する計画である。早期に基本的なフレームワークを確定できたことによって、より効果的な理論発展・構築が実施できると考えている。特に、サイエンスとエンジニアリングでは、アートにより近いサイエンスとアートの融合的な発展を検討する。 実証研究としては、消費財については、マツダに加えて、パナソニック、ダイソン、バルミューダの研究を推進する。特にパナソニックとは、長期的な研究協力関係にある。加えて、開発拠点が同じ大阪(デザインは京都)なので、コロナ禍においても、関西への調査出張は可能だと期待している。これらから、令和3年度における調査実施も推進できると考えている。 更には、生産財で最もSEDAモデルをうまく活用している株式会社キーエンスの研究を開始する。既に、研究協力の意思は聞いている。これも本社と開発拠点が大阪にあり、コロナ禍においても、東京や海外よりはフィールドスタディを進めやすいと考えている。 これらのフィールド調査に加えて、2021年度は定量的な調査の準備も開始する。サンプル数は計画通り、あまり増やさず、定性調査と定量調査の良いところを組み合わせた調査設計を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、予定していた国内外出張の中で、一部しか実施できなかった。フィールドスタディの結果のテープ起こしの費用も使用できなかった。その補助のために、バイトを雇用する計画があったが、その実施も見送る必要があった。 令和3年度は、国内外出張が認められ、フィールドスタディ先の企業が、聞き取り調査を受け入れてくれ、それらに使用する計画である。
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