本研究プロジェクトの主な目的は、マルチ・レベルの研究デザインに基づき日本で活動している多国籍企業内における駐在員主導の知識管理プロセスの動的ロジックを概念化し、実証的に調査することであった。しかしながら、本研究プロジェクトを開始した2020年4月以降、既に新型コロナウイルスの感染拡大により、従来の計画を大幅に変更せざるを得なくなった。本年度半ばで上智大学准教授の身分を終えることとなったため、これまでの進捗状況について提示したい。共同研究者と共に国際経営分野主要海外学術誌を中心に先行研究レビューを実施した。在日多国籍企業をサンプルとした先行研究の中で、これまであまり実証研究がなされていないテーマとして「駐在員知識マネジメント」、「参入方法の変更」、「現地CEO採用」、「組織ダウンサイジング」等が明らかになった。在日外国人駐在員への対面またはオンラインによるインタビュー調査を実施した上で質問票を設計・配布を本来予定していたが、コロナ危機による社会情勢に関連して回答率が大幅に下がることが予想されたため、一次データの収集をやむを得ず断念し、二次データの収集を東洋経済新報社の「外資系企業総覧 」及びビューロー・ヴァン・ダイク社の財務データをベースに行い、在日外資系企業の大規模なパネルデータセット(2010-2020)を作成した。各社のホームページ、アニュアル・レポート、Japan Times Weeklyや日経テレコン21等の記事も確認しながらデータベース構築の一部及びデータクリーニング・コーディングチェックを研究代表者自身で入念に行ったことに伴い多大な時間を要した。本研究ではバリューチェーンの複雑性・深化、トップ・マネイジメント・チームの構成・異質性、海外子会社の重要度に注目して、在日多国籍企業海外子会社のパフォーマンスの決定要因に関する概念モデルを新たに構築することを試みた。
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