研究課題/領域番号 |
20K01960
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
平林 紀子 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (30222251)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大統領 / アメリカ政治 / 選挙 / ドナルド・トランプ / マーケティング / 広報 / メディア |
研究実績の概要 |
第1の研究焦点である「Trumpの選挙と統治におけるマーケティングの戦略的中心性(組織的意思決定上の重要度、専門的戦略家の地位と役割)の検証」に関する知見は、①選挙時功労者が政権の戦略的中枢を占め、大統領へのアクセスが保証される一方、政策助言・閣僚人事は頻繁に交代しアクセスも不安定である。②政策や政治スタイルを含むプロダクトのコンセプトは、選挙と政権運営を通じて支持基盤層に訴求する高度な一貫性を維持し、所属政党・共和党のそれと齟齬がありながらも、それを凌駕し支配する「トランプ党化」を通じて政治的足固めを行う。 第2の研究焦点「選挙と統治におけるブランディングの特性と成否の検証」に関する知見としては、Trump個人・政策の両面で、固定支持層との強固な絆を維持するブランド化に成功した背景に、①党派分断の深化に伴う「凝集と排除」の力学、②Trump個人および現職大統領として享受する圧倒的報道露出に加え、支持層との間で感情に訴える画像やフレーズを共有するデジタルネットワーク構築を例とする戦略広報を通じた、政治的言説空間の支配、③共和党のトランプ党化是非論争、民主党の中道左派路線対立などの党内亀裂に起因する政党自体のブランドの弱体化がある。 第3の研究焦点「選挙と統治における【関係構築】手段としての戦略広報の分析」に関しては、①固定支持層の維持と拡大に注力する「ファンマーケティング」に基づくTrump戦略広報の、とくに政権運営上のリスクを分析中。②新型コロナウィルス蔓延による、TrumpとBiden各々の選挙運動(形態、広報手段、選挙資金集めと支出形態、活動家との連携)の変化とその影響を分析中。③保守系SNSネットワークやFOXテレビなどを通じた「選挙結果の不正」に関する陰謀論の拡散と、主流報道や大手SNSからの批判的包囲網に対する、Trump陣営の危機管理の特性を分析中。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第1の理由は、新型コロナウィルス蔓延の長期化という当初予期しなかった事態によって、選挙運動のあり方や政策優先順位など、研究課題内容と直接関わる政治環境が一変したことで、調査分析項目およびその優先順位を再検討する必要があった。 第2の理由は、コロナウィルス禍で海外渡航が不可能になり、学会・研究会・実務研修・現地の研究者レビューなど、研究を進展させるうえで不可欠な米国現地での情報収集の機会が著しく制限された。 第3の理由は、現職大統領が選挙に負け政権一期で終わる可能性は想定内であったが、Trumpおよび共和党が選挙結果を受け入れず「選挙の不正」を主張し、Biden大統領就任100日たった今でも、共和党支持者の半数以上が政権の正当性に疑念をもつという事態は予期しなかった。選挙と政権の分析枠組みは、正常な政権移行を前提として両者を比較するからである。また選挙と政権のマーケティングを比較する分析視点は、大統領の交代によって、若干の修正を余儀なくされる。すなわち、当初計画どおりTrumpを主研究対象として、2020年までの第一期政権と2020年選挙、さらに来る2022年議会選挙(中間選挙)を経て2024年大統領選挙の再出馬を射程に入れたTrumpの今後の"選挙戦"を分析するか、それとも、TrumpでなくBiden大統領の2020年選挙と2024年までの第一期政権の比較に研究計画を組み替えるかという選択である。現時点ではTrumpの再出馬が実現するか否か、Bidenが当初公約と違い再選を目指すか否かは不明であるが、当面は2022年中間選挙までの動向を踏まえつつ、Biden第一期政権運営に対するTrumpの影響、およびBiden民主とTrump共和の「プレ2024大統領選」の複雑な展開を観察する必要があると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
前述の「現在までの進捗状況」に記述した3点の状況変化(研究がやや遅滞する理由)に伴い、当初の研究計画を一部修正する。 「新型コロナウィルス蔓延の長期化による政治環境の変化」については、何がどのように変化したかという分析を加えて、研究課題の優先順位を修正する。 また「コロナ禍の中での研究展開の制約」については、オンラインによる情報収集にシフトせざるを得ないことから、膨大なオンライン情報を組織的に収集し、効率的に分析するために、専門業者による情報サービスの利用(有料)の積極活用ならびに情報収集を補助する人員の利用を計画する。 さらに、当初どおり「Trumpの選挙と政権」に焦点をおくか、それともBiden大統領に研究重点をシフトするかという選択については、「Trumpの第一期政権と2020年選挙、さらに2024年選挙再出馬の可能性」に重点をおいて分析する。なぜならば本研究は、初の経営者大統領Trumpが、経営マインドやマーケティングをどのように「選挙という競争」のみならず「公益を実現する政治経営」という公共に組み入れるか、その過程と結果を具体的に検証することを目的としているからである。Bidenの2020年選挙と今後の第一期政権の動向も、可能なかぎり同時進行で分析対象とするが、それはあくまでTrumpの特性を明らかにするための比較事例としての位置づけであり、また2024年までのTrumpの動向を左右する最も大きな要因であることは間違いないからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
第1の理由は、コロナ禍による渡航不能のため、支出計画の多くを占める米国現地での調査旅行渡航費を使用しなかった。使用しなかった渡航費は、21年度以降に使用する。 第2の理由は、コロナ禍による研究計画内容の変更(前出の「現在までの進捗状況」「今後の研究の推進方策」に記述)に伴い、情報収集分析の専門業者サービスの利用先を再検討する必要があり、20年度は年間サービス契約を見送ったこと。21年度は業者を選定し、年間サービス契約を結ぶとともに、研究遂行上比重が高まるオンライン海外情報の収集分析のための人件費にも使用する。 第3の理由は、当初購入を予定していたパソコンの新機種が発売延期になったため、購入を21年度以降に延期する。
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