本研究は、店舗内に居合わせた他者が、消費者の意思決定に及ぼす影響に注目した研究の一環である。中でも消費者のネガティブな購買行動に及ぼす影響に注目し、その要因の特定と、他者によるネガティブな影響が最大化(最小化)するメカニズムを明らかにすることを目的とする。具体的には以下の3つのステップに従い進めた。 第一に、他者の存在が消費者の心理や購買行動に及ぼす影響について文献レビューを行い、媒介要因としての羞恥の有用性を確認した。先行研究では、羞恥の他にもケチ、スティグマ、ネガティブな感情などの媒介概念が適用されていた。そこで各概念の測定尺度や適用状況などを検討し、羞恥概念の有用性を示した。 第二に、概念モデルの構築である。文献レビューを通じ、店舗内に居合わせた他者が消費者のネガティブな購買行動を引き起こす要因を整理し、概念モデルを提示した。モデルの構築にあたり、企業のマーケティング担当者からヒアリングを行った。以上の成果について、論文としてまとめた。 第三に、上記概念モデルを精緻化するため日本の消費者に注目した。日本の消費者が羞恥を感じる状況に関するテキストデータを収集、探索的に分析した。欧米の先行研究をもとに消費者が羞恥を感じる状況を分類し、テキストデータの分類基準とした。計量テキスト分析の結果、日本の消費者の羞恥状況は欧米の枠組みと共通性がある一方で、金銭および自己のプライバシーに関わる消費行動の想起が多いなど新たな発見もあった。以上の成果は論文にまとめた。また日本広告学会全国大会で発表した。 一方、調査結果から羞恥を感じる程度は性別や自己観といった個人特性が強く影響する可能性も確認された。そのため個人特性を加味したデータ分析を継続した上で、最終的なモデルの検証を行う必要があると判断した。結果については、研究期間終了後1年を目途に論文としてまとめる予定である。
|