研究課題/領域番号 |
20K01966
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鄭 潤チョル 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (10439218)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 価格差別戦略 / 反復購買 / スイッチング・コスト |
研究実績の概要 |
2022年度には購買履歴に応じた価格差別戦略と時間的な価格差別戦略について文献研究と実態調査を行った。消費者の特性をセグメントする方法の中で経済学に基づく方法を援用し、消費者が過去に自社の製品を購入した経験があるか否かによって「既存顧客」と「新規顧客」にセグメントした。そして、企業の戦略としては、上記の顧客セグメントに対するターゲティングの方法の実態を調査し、その中から価格を差別する戦略、すなわち、購買履歴に応じた価格差別戦略を定型化したモデルを考案した。さらに、企業の価格戦略を時系列に考えた時間的な価格差別戦略、すなわち、価格水準を時間の経過につれて引き下げる「上澄み戦略」と時間とともに引き上げる「浸透価格」に注目した2期間モデルを構築した。つまり、購買履歴と時間の経過が消費者に与える影響と、それを利用した複占企業の価格差別戦略についてゲーム理論を方法論とした数理分析を行い、企業の利益と消費者余剰を計算して当該戦略の効果と社会的な影響について理論的な考察を行った。 価格差別戦略が複占市場において実施される場合には企業にとって不利な結果をもたらすといった多くの既存研究の結果を再考察し、消費者の購買履歴に応じた価格差別に他の変数、例えば、外生的なスイッチング・コストや製品の水平的な差別化戦略などを一緒に考慮することによって、価格差別戦略が企業によって自発的かつ合理的に選択される実態について説明した。さらに、新規顧客優待と既存顧客優待の両方を同じフレームワークで分析した既存研究は少ないが、本研究では両方を1つのモデルの中で分析することによって、価格差別の有効性についてより精緻に分析することができた。これからこの結果についてワークショップでの発表や意見交換等を通じて分析内容をより強健なものにし、論文にまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度にはコロナ禍の影響になかでも消費者行動に関する予備的な実態調査を1回実施することができた。そして今まで整理してきた文献レビューから理論的なモデルを構築し、実態との整合性について分析する準備もできた。しかし、分析のための本格的な実態調査や意見交換のための出張等が実施できず、研究が計画通りには進捗していない現状である。
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今後の研究の推進方策 |
今後については、2022年度から始められた消費者の購買行動に関する実態調査を引き続き実施する計画である。そして、理論モデルを構築し実態との整合性を確認しながら仮説を立て、検証を通じて命題化する作業を行う。そして、その結果を様々な学会やワークショップ等にて発表しフィードバックを受けながら論文の形でまとめて成果を出す計画である。具体的には、企業が消費者を細分化して実施する価格差別戦略、例えば、既存顧客と新規顧客に対する差別戦略、会員と非会員に対する差別戦略、有形店舗の顧客と無形店舗の顧客に対する差別戦略等を実態調査する。そして、消費者の選好、過去の購買履歴からの影響、将来の購買行動に対する予想等、企業の様々な価格戦略に対する消費者の反応を総合的に考慮できる分析枠組みを構築し理論分析に反映する。そこから得られた内容をもとに更なる仮説・検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度には、計画していた数回の出張のうち1回しか出張ができなかったため、助成金の一部が残ったが、その分は2021年度から繰り越された分に相当し2022年度には単年度の配分額以上を支出した。繰り越した分は2023年度以降に出張費、消耗品等の必要経費として使用する計画である。
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