本研究の最終年度に当たる2022年度は、コロナ禍も若干落ち着いてきたことから、小規模零細小売業者やサービス事業者から直接聞き取り調査をする機会を増やした。とくに過疎地において、代々食品小売業を営んできた小売業者や理容業を営んできた事業者などから次世代に承継機会を逸失した状況、近年指摘されるような第三者承継を視野に入れる機会やそれを考える余裕がなかったことなどを聞き取りをした。そこでは事業承継を意識をさせる機会や地域の商工会などでの情報提供機会があまりなかったことなどが確認できた。 他方、過疎化の進む地域での顧客(消費者)動向、高齢化と人口減少が国の統計以上に進み、小売業者やサービス事業者の事業機会(市場)が喪失していることなどを需要側からも確認した。 時間経過により、小売業者やサービス業者自体の事業継続・承継が厳しくなる中、ちょうど本研究開始時から起こったコロナ禍により、これら事業者の経営環境は大きく変化した。それは事業者の中に既に事業承継を断念し、廃業を視野に入れていた者が、事業を継続させる経済的支援が行われたことにより、廃業準備に入るのではなく、事業継続を一定期間先延ばしする行動が見られるようになったことである。そして次第にコロナ禍が落ち着いていく中、あらためて廃業を視野に入れた行動が見られ始めたのは2022年度に入ってからであった。 この3年間は、小売業やサービス業、とくに小規模零細事業者には、これまでの長い経営環境でもほとんど経験しなかった事象が多かった。ただこうした事業者が経験しなかったことを経験したことにより、改めてその事業の存続意義、継承意義がさまざまな意味で問われた。また継続、承継していく中で、「コロナ禍」という特別な経営環境において変化に対応するという伝達ノウハウが必要であり、これらが承継者だけではなく、社会一般にも必要であることが明確にされた。
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