研究課題/領域番号 |
20K01997
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
松下 光司 中央大学, 戦略経営研究科, 教授 (40329008)
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研究分担者 |
土橋 治子 青山学院大学, 経営学部, 教授 (90333236)
齊藤 嘉一 明治学院大学, 経済学部, 教授 (50328671) [辞退]
外川 拓 上智大学, 経済学部, 准教授 (10636848)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 災害 / 食の消費 |
研究実績の概要 |
本年度は、実験に進むため前段階として、もっとも有望な分析視角を特定化することにした。そこで、これまでと異なる観点から2次データを分析した。問題意識はこれまでと同様に、災害(今回の場合は、東日本大震災)の前後における、食の消費パターンの変化を明らかにすることであった。今回の着目点は、「自粛」である。自粛という言葉で指す対象は、何ら法的な拘束や定められたルールはなくとも、人々が自らの意思で何らかの行動を抑制する現象を指す。英語で表すなら、self-restraintということができるだろう。
東日本大震災のような大きな災害が起きたとき、その地域の直接の被害地域とは居住していなくとも、われわれは、いわゆる「自粛」してしまうことがある。食の場合で言えば、高額であったり、ぜいたくな食事に従事することは避けてしまうかもしれない。その理由としては、被害を受けた人々の心の痛みや生活のつらさを想像し、かつ共感することで、人々の気持ちに寄り添ううべきだと考えるからであろう。すなわち、自粛行動が発生するには、perspective takingやempathyという媒介変数を想定できる。本年度は、このような自粛行動が起きているのかどうかを、リサーチ会社から貸与を受けた、食に関わる2次データを分析することで確認することにした。
なお、このような災害に関わる「自粛効果」(Jishuku Effect)は、われわれ日本人にとっては不思議ではない、馴染みのある行動パターンではあるといえるだろう。それに対して、欧米の人々にとっては、この種の消費パターンは、珍しいものと感じるようである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
食マップというマーケティング・リサーチのデータを用いて、東日本大震災前後の食行動パターンを比較した。特に、功利的飲食(一般的な日常生活における主食)、快楽的飲食(アルコールやキャンディ)という視点を導入して検討した。飲食に関わる行動が、震災発生によって抑制されるのは、功利的飲食よりも、快楽的飲食の場合であろうと考えたからである。
分析よって示された結果は、われわれの予測を支持するものであった。すなわち、震災の前と比べて、震災の後において、アルコール類などの、快楽的な飲食が抑制されていた。これらの結果は、災害によって生じる自粛効果の存在を示すものであった。
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今後の研究の推進方策 |
今回の分析によって得られた結果には、2次データの分析に含まれる限界がある。その限界とは、種々の要因をコントロールした結果ではあるものの、この分析は相関の結果でしかないことである。よって、最終年度については、この限界を克服するため、実験に着手していく。原因としての「災害」の特性をコントロールし、媒介変数を測定するなどして、自粛効果が生じる心理プロセスやメカニズムの特定化を試みていくのである。
具体的には、2つの方法を考えている。第1は、オンライン実験である。ある地域において発生した災害のシナリオを実験参加者に読んでもらい、その後の食行動について質問することを考えている。第2は、よりリアルな選択行動を対象とした実験である。たとえば、実験参加者に会場に集まってもらい、ある災害に関わるビデオを見てもらう。そして、その後の参加の謝礼として、功利的飲食(サラダ、フルーツなど)と快楽的飲食(チョコレート、キャンディ、プリンなど)のどちらかを選んでもらうことが手順としては想定できる。以上のように、最終年度については、「自粛効果」を、複数のアプローチの実験によってテストしていく予定である。
先に述べたように、「自粛効果」(Jishuku Effect)は、われわれ日本人よりも、欧米の人々にとって不思議な現象として感じられるかもしれない。この観点を最大限強調し、論文化を目指していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2次データの分析に多くの時間を費やしてしまったため、経費支出で予定されていた実験に取り組む時期が遅れてしまった。2023年度には、2次データの分析において有望な結果が得られたため、最終年度の2024年では、オンライン実験や対面実験など、複数のアプローチから実験を実施することになる。残りの経費はそこに費やされることになる。また、打ち合わせのための旅費も、必要に応じて支出されることになる。
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