最終年度の2023年度は、これまでに行ってきた研究の成果をまとめた。具体的には、得られた成果をマーケティング領域における世界最大の学会であるAmerican Marketing Associationの年次大会であるSummer Academic Conferenceで発表するとともに、論文にもまとめ、トップジャーナルに投稿した(現在査読中)。 研究期間全体を通して、①聴覚的刺激(楽器の音色)と視覚的刺激(質感、製品/パッケージの色、ブランド・ロゴ)の表現的一致(connotative congruence)が消費者のポジティブ感情や適切感(feeling right)を高め、それによって製品の評価や選択に正の影響が及ぼされること、②音楽の音高(ピッチ)による影響が、直前に接触した音楽(コンテクスト)の影響を受ける相対的なものであることを明らかにした。②では、直前により高い音高の音楽に触れていたか、より低い音高の音楽に触れていたかによって、同じ音楽でもそれぞれ「空間的に下降(spatially descending)している」、「空間的に上昇している(spatially ascending)」という異なる印象を与え、その結果、それぞれ暗い色、明るい色との連合が形成されるため、そのような色をした製品をより高く評価したり、より多く選択したりするようになることが明らかにされた。 ②の知見は、これまでクロスモーダル対応や音響心理学の研究において、主に単音を用いた実験結果に基づいてその可能性が指摘されていたが、本研究によってマーケティング、消費者行動の領域において初めて、より複雑な音楽という刺激を用いて実証された。この知見が、オンラインや実験室での実験に加え、カフェやレストランを用いた複数のフィールド実験によっても確認されたことは、学術的、実務的に極めて大きな意義をもつものと思われる。
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