研究課題/領域番号 |
20K02004
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研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
金城 敬太 共立女子大学, ビジネス学部, 准教授 (20611750)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 公平性 / 多様性 / 因果推論 / 機械学習 / トロッコ問題 / プライバシー / 社会厚生関数 / 非合理的な意思決定 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、異質な個人に効果的かつ倫理的な教育関連のマーケティングの方法を理論および実証分析で明らかにすることである。具体的に『理論』、『実証』、『応用』の3つで構成されている。『理論』では、個人情報保護や公平性を考慮し、個々人の教育サービスの因果効果の最大化を行う方法を分析、『実証』ではその実証、『応用』では成果の発信などを行う。本年度は、『理論』、『実証』、『応用』の観点から6つの研究を行った。 1.理論研究では、教育に関する介入を行った際に因果効果の公平性を担保するために、因果効果に対して社会厚生関数を導入する方法を提案し実験を行った。2.1の社会厚生関数を導入して公平性を担保するという考えは、多くの人工知能の倫理問題と同じ構造を持っている。特に自動運転のトロッコ問題に適用できることを理論的に示した。3.1のような公平性は近年、機械学習の分野でも導入が進んでいる。この考えや形式的定義が、社会科学など多くの分野で利用されている多様性という考え方と関連しており、数学的な類似性があることも分析した。4.加えて、個人情報のコントロールが可能かつ、非合理的な意思決定を行う人がいる場合に、介入する組織側の意思決定がどう変化するのかについて理論的に分析した。5.実証研究では、3をふまえて多様性を担保しながら、人々をセグメンテーション(クラスタリング)を行って介入する方法を提案し実証した。6.多くの人々は、過去の特徴的かつ類似な事例に影響を受け、4でも述べたような非合理的な意思決定を行う。そうした意思決定の構造の分析やそれに基づいた企業戦略ついても実証研究を行った。 1、3、4については国内の学会で発表、2、4、6については国外の査読付き論文で発表している。実証研究では、上記に加えて高等教育に関する意識や行動、倫理的な価値観に関するインターネット調査を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、主として『実証』、一部『理論』と『応用』についての検討を行う時期であった(計画書の(3)の①、②、③)。 これに対し本年度は、『理論』(計画書(3)の①)については初年度に続き進捗があった。具体的には、社会厚生関数の導入することで公平な因果効果を実現する方法を提案、派生的にこの考えが人工知能の他の領域(自動運転などの応用)に展開できることを示した。さらに上記の公平性が多様性に関連していることを示したことが挙げられる。加えて、個人情報保護に関する意識のある人々を想定したうえでの組織の介入の最適化に関する研究も行った。 『実証』(計画書の(3)の②)については、インターネット調査の実施やデータを用いた検証を行った。具体的には、予算の都合上、高等教育に関する意識や具体的に受けているサービスに関する高校生への調査、多様性に関する大学生や高校生の意思決定の調査、個人情報に関する意識に関する調査を行った。さらに公平性や多様性を保ちつつターゲティングや介入を行う方法の実証研究、非合理的な意思決定(過去の特殊な事例により変化する意思決定)をふまえた介入の最適化に関する実証研究がある。 『応用』(計画書の(3)の③)については、それぞれ国内の学会で発表を3つ、加えて国外の査読付き論文で3つ発表している。 上記の②の実証のための調査費用、③における英文校正に研究費を用いている。以上を鑑みて、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は理論的な研究をふまえたうえで、昨年に引き続き「実証」(異質性下での因果推論と倫理を考慮した実証分析)および「応用」(成果のまとめや社会への応用方法の考案など)を行う(計画書のフェーズ(3)の②および③)。具体的には下記のような研究を行う。 1.異質性下での公平な因果効果を分析する新しい手法に関する実証研究のまとめ:異質性を考慮し公平な政策効果を分析する方法を開発を行っている。すでに昨年度の計画をふまえてインターネット調査を行い、データも取得したため、これらの分析を行って発表を行う予定である。 2.個人情報保護や公平性を考慮した分析方法の研究のまとめ:個人情報や公平性などの倫理面での人々の意向調査などについて、昨年度、インターネット調査を行っている。これらのデータの分析を行って発表を行う。 3.多様性に関するマーケティングなどの実証研究:昨年度の理論研究の際に、公平性などの倫理的側面が社会科学などで利用される多様性と関連することが明らかとなったため、これらの理論や実証、さらに社会に応用する研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)新型コロナの状況下で、国内学会や国際会議などの発表がオンラインでの参加が中心となった。それに伴い旅費の支出が少なくなっている。また、費用面の制約や教育マーケティングに関する重要な要因の探索、新たに発見された課題に関連する事前分析を目的に実験を行う代替として調査を行った点がある。
(使用計画)これらは今年度における発表の際の旅費として使用予定であるほか、研究時に明らかになった多様性との関連についての調査、さらに実験の費用にあてる予定である。加えて理論研究における論文の英文校正などに費用をあてる予定である。
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