最終年度は、まず経営者交代データを更新した。従来は東洋経済新報社の役員四季報・会社四季報をベースとして利用していた。しかし役員四季報において新任社長の掲載が終了しているため、特定が煩雑になっていた。そのため、日経NEEDSの企業基本データ、CGESデータを用いて2022年3月までデータを更新しつつデータを再構成し用いて分析を行った。 分析のポイントとしては経営者交代前に前任経営者が最終年に自らの立場を保持するために利益マネジメントを行っているかどうか、経営者交代後に新任経営者が就任初期にどのような利益マネジメントを行うかどうかである。本年はこれらに加えコーポレートガバナンスへの影響として株主構成が、経営者交代と利益マネジメントに与える影響を分析した。分析モデルとしてAli et al. (2015)のモデルを援用し、経営者交代前1期から交代後3期までを調査対象期間とした。 まず交代前後の利益マネジメントを概観すると経営者交代前には利益マネジメント、特に利益減少的な利益マネジメントが観察される。これに対して経営者交代後(1-3期全体)には利益増加的な利益マネジメントが観察された。次に強制的交代、外部者による交代による交代を経営者交代とみなしても類似の傾向が観察される。ただし交代後の各年度に分けると多少異なった傾向もみられる。 次に株主構成による違いを検討すると、例えば機関投資家等が保有している場合に利益減少的な利益マネジメントが緩和される傾向にあることが示されているなど、コーポレートガバナンスが経営者の交代に影響していることがわかる。 これら検証については、利益マネジメントを測定するモデル、コントロール変数、企業・産業・年のコントロールにより結果が異なるケースもあるため解釈には留意が必要である。また昨年度に完成したワーキングペーパーをジャーナルに投稿した。
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