研究課題/領域番号 |
20K02010
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大下 丈平 九州大学, 経済学研究院, 特任研究者 (60152112)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マネジメント・コントロール / 管理会計 / フランス / パラドックス / ガバナンス / 横断性 / ビジネスモデル / 共創戦略 |
研究実績の概要 |
本研究は、企業環境に順応するためのパラドックス概念の操作性を分析の基軸に据え、それをめぐるフランスコントロール論の系譜に通底する理念の通時的な形態変化とその意味を理論的・実証的に闡明することを目的とした。この目的を達成するために、以下の内容で日本会計研究学会において報告を行い、その結果を学内誌『経済学研究』(九州大学経済学会)に公表した。 1980年代から今日までを4期に分けて、それぞれにパラドックス概念の展開に一貫した論理を見出した。それは「横断性」をめぐる認識である。どの段階においてもこの「横断性」をパラドックスと認識し、それを緩和する手段を「統合性」獲得のための方策と見なした。例えば第Ⅰ期では、コントロールのプロセス間の「横断性」、責任レベル間の「横断性」をパラドックスと認識し、そこではコントロールを支える管理会計が統合モデルによって「横断性」を緩和しようとした。第Ⅱ期では、例えば予算システムの長所(短期の委譲)と短所(近視眼、予算スラック)の間に「横断性」を見出し、それを緩和する方策として効果的なコントロールとして階層的監視などが準備された。さらに第Ⅲ期では、競争力、価値創造、持続可能性の間の「横断性」をパラドックスとして認識し、それを緩和する方策としてビジネスモデルが構築された。第Ⅳ期においては、競争力、価値創造、持続可能性の間の「横断性」に加えて、グローバル企業が抱える進出先の国・地域での価値共創戦略を採用する場合、またそこには新たな「横断性」が惹起され、パラドックスもより錯綜することになった。その場合に採用された方策は、マネジメント・コントロールをガバナンス論の一領域と見なし、内外のコントロールを外部と内部のガバナンスに区分するようになった。ここではガバナンスレベルで内外の「横断性」を見出し、それを統合するモデル化を推奨している。以上が今年度の研究成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は研究題目に沿って、これまでの研究成果を振り返りつつ、関連文献を綿密に整理し、国内では研究報告と成果公表を実行できた。そうした意味では、研究題目に関する研究は計画に沿って着実に進められていると判断される(ちなみに国内では、日本会計研究学会で報告し、その成果は九州大学の学内誌『経済学研究』において公表したことは上述した)。一方海外では、カナダ在住のフランス人研究者(HECモントリオール)と研究プロジェクト(世界のマネジメント・コントロール論研究)を進めているが(原稿の提出までは完了、現在は出版を待っている)、昨今のコロナ禍で編集作業が大幅に遅れており、出版が何時になるかわからず、今年度の業績には加えていない。しかし、このプロジェクトからも研究題目に関して多くを学んだ。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると判断した。こうした進捗状況からみて、今後残りの2年間の研究の推進方策は、予定通りに進めることができると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
上記の研究実績の概要欄でみたように、コントロールのパラドックス概念が4つの期間にわたり一貫した論理をもつことを明らかにした。それは「横断性」をめぐる認識であった。そしてその「横断性」を解決するために、マネジメント・コントロールと管理会計の両方において解決策が模索された。要するに、4つの期間のどの段階においても「横断性」をパラドックスと認識し、それを緩和する手段として、マネジメント・コントロールの領域ではビジネスモデルの構築が、他方、管理会計の領域では「統合性」を確保するための統合モデルの構築が解決策として提案された。これはまた、フランスだけに限らず、アングロサクソン諸国のマネジメント・コントロール論においても妥当する一般性を感じさせるものとなっている。 そこで、今後の研究方策は次のようになろう。まず明らかにされたコントロールのパラドックス概念を基礎に、今度は分析会計(原価計算)や管理会計がコントロール論においてどのように位置付けられ、それらがコントロール論とどのような関係となるのかに注目することになる。そのことはさらに、フランスコントロール論の組み立ての特徴と同時にフランス管理会計論の構造の特徴を闡明することにつながるであろう。特にコントロールのパラドックス性を「横断性」と「統合性」をめぐって理解することは、フランスと日米との国際的な比較管理会計論へ興味深い論点を提示することになるし、さらにコントロール論や管理会計論の将来的な行方を明らかにする手掛かりを得ることにもなろう。
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