研究課題/領域番号 |
20K02013
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
吉田 和生 名古屋市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (30240279)
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研究分担者 |
壁谷 順之 長崎県立大学, 地域創造学部, 准教授 (50588944)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 退職給付会計 / 遅延認識 / 即時認識 / 価値関連性 / 時系列分析 |
研究実績の概要 |
令和2年度はジャーナルを中心とする先行研究の調査を行った。アメリカの退職給付会計に関する研究は数多く行われているが、遅延認識に限定すると非常に少ない。その中で、Jiang(2011)は未認識債務の時系列特性を中心に分析を行い、経営者による裁量的な行動の影響を明らかにしている。未認識債務の自己相関係数は高く持続性があるが、単位根があり、償却による減少や相殺は行われていない。その増加は長期的には非ゼロであり、その費用の平準化は達成されていない。会計の基礎となる経営者の仮定レートによって未認識債務は増減しており、遅延認識の目的である中立的な意味での費用平準化は実現されていない。 Hann et al.(2007)は遅延認識と即時認識における会計数値の市場評価について分析し、比較を行っている。積立不足に代表される貸借対照表情報は違いはなく、価値関連性の点で同等であることを示している。しかし、遅延認識の下での未認識債務償却費用は企業価値とマイナスの関係が得られているが、即時認識の下での対応する費用項目(発生した債務額)と企業価値との関係は不明であることが示されている。企業価値との関連性から即時認識へ変更されたが、寧ろ価値関連性の低下を指摘している。 これらはアメリカ企業を対象としたものであり、わが国とは異なる。コリドーアプローチを採用していたアメリカでは一定の範囲内では未認識債務が償却されなく、減少しない仕組みであった。わが国では全ての未認識債務が償却の対象となり、発生した時点でより認識される会計処理であった。また、2001 年3月期から会計基準が導入されたことから、多額の積立不足が存在していた。未認識債務及びその償却費用は多額であり、会計数値や市場評価の上で重要であったと考えられる。わが国のデータを使って分析することは非常に意義があると考えられ、令和3年度から実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究のサーベイをほぼ終了し、実証分析へ進む段階にきている。来年度(R3年度)においては分析モデルを検討して、実証分析を行う。特に、退職給付費用の時系列比較を中心的に行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は退職給付費用の時系列分析を行う。未認識債務に関する費用として、多期間に分割して認識される償却費用(遅延認識の費用)と発生時に即時に認識される費用(即時認識の費用)を比較する。Jiang(2011)は未認識債務の時系列特性について分析し、系列相関が強く、一定の値に収束することを解明している。わが国のデータについても、1) 各データの自己相関係数、2) 各データの標準偏差、3) 時系列の収束を確認する自己回帰モデルによる分析をおこない、時系列特性を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの関係で、国内・国外出張がなくなり、その分、次年度繰越額が多くなった。次年度は対面の学会が予定されており、当該予算の執行が見込まれている。例えば、日本会計研究学会(第80回年次大会)は、9月8日から9月10日の期間で九州大学で開催される予定である。
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