研究実績の概要 |
本研究では退職給付会計における遅延認識の効果について分析している。2001年3月期に、初めてわが国に退職給付会計基準が導入された。それ以前においては引当金の税法規程や公認会計士協会の委員会報告等があったが、会計基準はなかった。会計基準を円滑にわが国の企業に導入するため、導入の影響をおさえる仕組みが基準におり込まれていた。それが発生した債務の遅延認識であった。遅延認識は仮定と実際が異なった場合に発生する債務の認識を遅らせるものであり、費用平準化の効果があった。その後、2014年3月期から即時認識に変更する大改正が行われた。これによって関連する費用・債務の「遅延平準化」から「即時計上化」へ、退職給付会計は大きく変わることになった。 本研究の分析は遅延認識と即時認識、それぞれの会計情報の価値関連性を比較・解明することである。そのため、次の3つの具体的なテーマについて分析している。時系列の費用比較、経営者の裁量行動との関係、企業価値との関係 本研究では東証1部・2部に上場する3月期決算企業を対象として分析している。2002年3月期から2021年3月期まで18,961社(未認識債務償却費用の分析サンプル)及び20,174社(株価の分析サンプル)について分析している。財務データはAstra Managerデータから、株価データは株価CD-ROM(東洋経済新報社)から収集している。データの分析はEViews Ver. 11を用いて行っている。 分析の結果、費用の変動は抑制されているとともに、当該債務に係る償却費用は経営者が決定した基礎率によって影響を受けていることが確認された。また、市場評価の点では貸借対照表の債務情報はマイナス要因として評価されているが、費用情報はマイナス要因ではなく、基礎率を反映して経営者の裁量情報として評価されている可能性があることが明らかとなった。
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