研究課題/領域番号 |
20K02014
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
足立 俊輔 下関市立大学, 経済学部, 教授 (30615117)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 病院原価計算 / BSC / TDABC / タスク・シフティング / 医療情報システム / 温室効果ガス / 鉱物資源 / 原価計算システム |
研究実績の概要 |
本研究は、コスト情報を加味したタスク・シフティング(業務移管)関連指標を包摂した病院バランスト・スコアカード(以下、病院BSC)の有用性を検証するために、日仏米の国際比較の観点から整理することで、医療におけるマネジメント・コントロール及び原価計算のあり方を検証することを目的としている。 具体的には、病院BSCのKPI指標として、「時間」を配賦基準とした病院原価計算(時間ベースの病院原価計算)で算定されるキャパシティ情報(業務遂行に用いられる資源の量)を用いたタスク・シフティング(以下、TS)の有用性を検証することを目的としている。本研究は、厚生労働省の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」で議論されているTSの影響を、コスト情報の観点から院内情報システム(EF統合ファイル・クリニカルパスなど)を活用して検証しようとしている点に、学術的な特色・独創的な点がある。 そこで本研究では、①病院BSCにおけるTS関連情報の有用性を明らかにすることと、②院内情報システムを活用した病院BSCおよび病院原価計算(特にTDABC)の設定運用プロセスを明らかにすること、これら2つの研究課題に取り組むことで、コスト情報を加味したTS関連指標を包摂した病院BSCの体系的な分析整理を行う。 以上の研究を行うにあたり、TSと病院BSCの関連性について研究調査を進めていきながら、同時に時間主導型活動基準原価計算(TDABC)の研究成果をTSに関連させながら研究を進めていく。具体的には、これまで集めてきたTSの基本的文献・資料のほか、最新の病院BSCや病院TDABCの事例を掲載した書籍や学会誌などの資料収集も行う。文献収集だけではなく、国内を中心に実際の病院訪問調査を行い、病院BSCおよび病院原価計算に対する現場の意見も積極的に取り入れる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、医療情報システムと原価計算の関連性の研究に基づき、鉱物資源に関する情報データベースを原価計算システムに組み込むための研究を行った。当該研究成果は、(1)足立俊輔「医療資源と鉱物資源の測定と管理 ―社会的重要資源を対象にした原価計算システム―」『産業経理』83巻1号(2023年4月)にて公表している。そして、当該研究成果については、日本管理会計学会2023年度第1回(第64回)九州部会(於:下関市立大学)にて発表を行う予定にしている。 なお、当該研究成果に至った経緯は、本研究の基軸となるHBSのキャプランの研究動向を鑑みてのことである。すなわち、キャプランやポーターらのHBS教授陣は、2010年より医療資源に関する経営学的アプローチを試みているが、近年ではキャプランは、病院原価計算としてのTDABC以外に、温室効果ガス(以下、GHG)測定のための鉱物原価計算の計算プロセスを構築しようとしている(Kaplan, R. S. and K. Ramanna (2021). Accounting for climate change. Harvard Business Review, 99(6): 120-131)。そこで、自身もこれまで病院TDABCについて独自に研究を進めてきたため、キャプランが鉱物資源を中心とする原価計算を「なぜ」取り上げ、そして「どのように」解決しようとしているのか、について着目しようと考えた。 ただし本研究では、キャプランの当該研究成果をそのまま後追いするだけでなく、昨年度の研究実績をもとに、情報データベース、すなわち、DPCデータ(特にEF統合ファイル)に記録された膨大な患者データを原価計算システムに援用する観点を、鉱物原価計算システムではどのように取り扱われるのかについて、マテリアルフローコスト会計の観点から研究を行う予定にしている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、キャプランの研究方針に従い、医療資源と鉱物資源に関する原価計算システムを比較する研究を行った。令和5年度も引き続き、これまで進めてきたDPCデータ(特にEF統合ファイル)に記録された膨大な患者データを原価計算システムに援用することの有用性を、温室効果ガス測定を主目的とする鉱物原価計算システムに当てはめる形で研究を進めていく予定である。なお、鉱物原価計算においては、ESG報告書などの提出目的のために個々の企業で整備されてきたGHG排出量に関するシステム・データは現在、環境省や経済産業省、それに研究所などのサポートにより、統合の流れがみられる。こうした傾向は諸外国でも確認できる可能性が高く、そうした意味で、昨年度まで新型コロナウィルス感染症の情勢を鑑みて予定延期していた渡米又は渡仏の研究出張を実施する意義が高くなっているといえる。 具体的に、令和5年度はアメリカ会計学会の年次総会(2023 AAA Annual Meeting Logo CTLA: August, 2023)に参加して、病院原価計算や鉱物原価計算の学会における立ち位置や関連情報の意見交換を積極的に行う予定にしている。また、当該学会においても、タスク・シフティングやBSCに関する情報交換や意見交換を行う予定にしている。当該研究成果については、論文等を通じて公表を行う予定である。 なお、日本医師事務作業補助研究会などの医療関連学会のほか、調査対象病院や会計関連学会など、国内の出張についても徐々に参加して情報収集活動を行う予定である(Zoom学会参加含む)。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の関係から、病院及び医療学会といった現場の実務調査が滞っていること、および初年度に予定していた渡米及び渡仏の研究出張が実現できていないことが要因である。 令和5年度はアメリカ会計学会の年次総会(2023 AAA Annual Meeting Logo CTLA: August, 2023)に参加して、病院原価計算や鉱物原価計算の学会における立ち位置や関連情報の意見交換を積極的に行う予定にしている。また、当該学会においても、タスク・シフティングやBSCに関する情報交換や意見交換を行う予定にしている。当該研究成果については、論文等を通じて公表を行う予定である。 なお、日本医師事務作業補助研究会などの医療関連学会のほか、調査対象病院や会計関連学会など、国内の出張についても徐々に参加して情報収集活動を行う予定である(Zoom学会参加含む)。
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