研究課題/領域番号 |
20K02015
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
松岡 孝介 東北学院大学, 経営学部, 教授 (30453351)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 収益会計 / 管理会計 / マーケティング / 顧客データ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、収益会計理論を基盤に(1)収益形成過程の促進要因を分析し、(2)収益バランスが安定成長に与える影響を検証し、そして(3)顧客生涯価値に基づく資源配分方法を構築することである。 (1)については、研究協力企業A社より提供を受けた従業員の販売活動データと、顧客の取引データを用いて、それらの間の関係を分析した。この結果、販売活動の中には新規製品売上高などの財務業績に正の影響を与えているものと、そうでないものの両方が存在することが明らかとなった。 (2)は、A社が2004年から2019年までの15年間に及ぶマーケティング志向の予算管理システム構築の取り組みを通して、いかに新規顧客、既存顧客、新規製品、そして既存製品の間のバランスが取れた収益成長を目指してきたかを考察した。そこでは、A社が時間の経過に伴うマーケティング戦略の変化に対応させて、予算管理システムの形成と再形成を行い続けてきたことが示された。 (3)は、A社顧客の生涯価値に影響を与えうる特性データを用いた分析を行なった。その結果、A社において新規製品売上高などの財務業績に影響を与える顧客特性が何であるかを示すことができた。また、(3)については、マルコフ連鎖に基づく顧客生涯価値の分析手法を構築し、A社とは別の企業のデータを用いた適応事例研究も行なった。この手法に基づく分析の結果、現在の収益性が高い顧客が、将来においてもそうであるとは限らないことを示すことができた。また逆に、現在の収益性が低い顧客であっても、将来には高い収益性を持つようになる可能性があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、成果を海外学会で発表することを目指していたが、COVID-19の影響によりそれができなかった。このような不測の事態はあったが、全体として見れば研究の進捗はおおむね順調であったと考えている。3つの研究目的別に進捗を示せば、以下の通りとなる。 (1)について、海外学会が延期となってしまった代わりに、日本管理会計学会の2020年度全国大会で報告を行った。これにより、研究過程をワーキングペーパーとしてまとめることができ、また今後研究を進めていく上で重要な課題を認識することができた。また、現在、認識された課題に基づいて新たなデータ収集と分析を進めることができている。 (2)は、2020年6月に英文でワーキングペーパーを作成した。また、この原稿については、当初は海外研究者を訪問して意見交換を行う予定であった。だが、海外出張が不可能になったため、e-mailのやり取りを通して助言を得ることができた。その結果、2021年3月には修正稿を作成することができた。海外学会での報告機会は得られなかったものの、海外雑誌への投稿準備は着実に進んだと考えている。 (3)は、A社データを用いた分析が順調に進み、(1)でも示した日本管理会計学会における発表の中に盛り込むことができた。また、マルコフ連鎖モデルに基づく顧客生涯価値についての論文が、海外雑誌で採択されるという想定外の進捗を果たすこともできた。この論文は顧客エクイティ(現在および将来における顧客の生涯価値の合計)を主題としていたが、査読者から顧客生涯価値に関わるモデルを構築しその分析結果を新たに論文に盛り込むべきと提案され、修正を加えることとなった。この結果、顧客生涯価値に基づく資源配分に関わる研究が想定以上に進展することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
A社との協力関係を梃子にして一層のデータ収集、分析、および論文執筆を進めることが、今後の研究の推進方策の中核である。研究目的別に今後の研究推進方策を示せば、以下の通りである。 (1)については、従業員データと顧客データの対応関係をより強化していくことが必要である。A社におけるこれらのデータは、一人の従業員が複数の顧客を担当するというネステッドデータの構造を持っている。だが、従業員の販売活動データの中には、顧客との対応関係が必ずしも明確ではないものもあった。これらの対応関係を強化することで、分析精度がより向上していくと考えられる。また、販売活動の量だけでなく、質についても検証を行う必要がある。同じ量の販売活動を行なっても、質が低ければ財務業績との関係性が弱まると考えられるからである。この点については、A社より販売活動以外の従業員データの提供を得られることとなっている。 (2)は、まだワーキング・ペーパーの段階であるため、今後さらに推敲を重ねていく。今後の修正も、引き続き海外の共同研究者からの助言を得ながら進めていく予定である。 (3)は、顧客生涯価値のドライバーに目を向けた分析モデルの適応を検討している。マルコフ過程に基づく顧客生涯価値モデルは、顧客の取引実績に基づいて将来における顧客行動を予測する。しかしながら、取引実績がない顧客、すなわち見込客の生涯価値を推定するためには、彼らの取引行動を左右する要因を分析モデルに組み込む必要がある。顧客特性に基づく生涯価値分析を行うことができるような分析モデルをA社データに適応するために、マーケティング領域における先行研究を精査していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、主に2つの理由により英文校閲費が想定よりも少なかったために発生した。1つ目は、2月末を予定していた英文のワーキングペーパーの完成が3月中旬にまでずれ込んだことである。その結果、英文校閲の完了は3月末に、校閲費の支払いは4月になってしまった。この分は、2021年4月にすでに支出済みである。 2つ目は、海外でフルペーパー付きで報告する予定であった論文を、国内学会の報告で済ませたことである。COVID-19の影響がなければ、この英文校閲費が発生していた。2021年度はオンラインでの海外学会における報告機会が得られる見込みであるため、この分の未使用額を利用する予定である。
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