研究課題/領域番号 |
20K02019
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
藤野 雅史 日本大学, 経済学部, 教授 (60361862)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 管理会計担当者 / 人材育成 / 定性的研究 / フィールド調査 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、管理会計担当者がどのような経験をつうじて、不正防止の監視役と事業の支援者という2つの役割期待に応えるためのスキルを身につけるのかを探索することである。研究実施計画にもとづき、令和2年度は、①文献調査、②A社へのフィールド調査、③国際的なセミナーでの研究報告を行った。①文献調査では、管理会計担当者の役割をめぐる近年の国際的な研究関心を反映した文献に加えて、1950年代のコントローラー制度導入をめぐる研究者・実務家間の議論に関する文献を検討した。前者の文献の検討からは、管理会計担当者が身につけるべきとされる3つのスキル(幅広い会計知識と会計データの利用を想像する力,生産・販売・財務における主要な業務課題の理解力,統合的かつ全社的な視点からその課題をみる能力)について、それぞれのスキルをどのように構築していくかに関する知見が蓄積されていることを明らかにした。後者の文献の検討からは、上述した管理会計担当者への2つの役割期待がすでに1950年代には問題になっていたこと、管理会計担当者の育成をめぐって他部門との人事異動が検討されていたことを明らかにした。②のフィールド調査では、A社を訪問し、管理会計担当者へのインタビューを行って、彼らの業務経験に関する定性的なデータを入手することができた。とくに、新しい管理会計システムの導入に携わるという経験が、事業の支援者という役割期待に応えるためのスキルを高めていることがわかった。③では、8月にChapman教授をはじめとするBristol大学の研究者・院生が参加する国際セミナー(オンライン)に参加し、定性的なデータからの理論化に関する意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
文献調査についてはおおむね順調に進めることができ、その研究成果を2本の研究論文に反映させることができた。ただし、管理会計担当者の役割については、国際ジャーナルに公表される論文数がさらに増えてきており、令和3年度以降も引き続き文献調査を継続する必要がある。A社でのフィールド調査では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、訪問調査が大幅に制限されることになった。すでに面識のあるインタビュー対象者とはオンラインでのインタビューによりデータ収集を継続することができたが、新しいインタビュー対象者とは信頼関係を築くまでに時間がかかっている。また、飲食業を営むA社では、コロナ対策の営業制限により業績が急激に悪化しており、従来どおりに研究プロジェクトを継続することができない可能性が高まっている。こうしたことから、A社とは別のリサーチサイトの開拓に着手し、管理会計の導入を支援する複数の会計専門家(組織外部の管理会計担当者)にアクセスすることができた。そのうちの一人とは共同プロジェクトを立ち上げ、管理会計の導入支援にあたって、会計専門家は経営者との対話スキルをどのように実践しているかを検討することになった。セミナー報告については、国内・国外ともに、オンラインによりおおむね順調に実施することができた。前述の会計専門家とは、日本経営会計専門家研究学会における研究部会を設立し、その成果の一部は、同学会の全国大会(オンライン)において研究報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画では、文献調査を令和2年度までで完了するとしていたが、最新の研究論文を網羅するため、令和3年度も文献調査を継続する。A社でのフィールド調査では、引き続きインタビュー対象者との信頼関係を強め、A社への負担に配慮しながら必要なデータ収集を進めていく。共同プロジェクトを立ち上げた会計専門家とは、組織外部の管理会計担当者に求められる対話スキルを明らかにするために、リサーチサイトを選定し、訪問調査およびオンライン調査により本格的なフィールド調査を進めていく。以上の文献調査、A社とのフィールド調査、会計専門家との共同プロジェクトについて、それぞれの研究成果を論文や書籍として公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、予定していた訪問調査を少なくとも2回実施できなかったため。この2回分の訪問調査は次年度に実施する予定である。
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