本研究の目的は、管理会計担当者がどのような経験をつうじて、不正防止の監視役と事業の支援者という2つの役割期待に応えるためのスキルを身につけるのかを探索することである。当初の研究実施計画は令和4年度までの3年間であったが,新型コロナウイルス感染症の拡大によりフィールド調査に遅れが生じたため,研究期間を1年延長し,令和5年度が最終年度となった。 本研究では、飲食業A社をリサーチサイトとして管理会計担当者のスキル構築を考察するプロジェクトと、社外の会計専門家による現場経験を会計知識への変換を考察するプロジェクトを遂行した。 A社のプロジェクトでは、フィールド調査から得られたデータにもとづき、若手の会計部門員が新しい業績指標の導入に関与する経験をつうじて、どのように管理会計担当者として必要なスキルを身につけていくかを検討した。検討の結果、業績指標の開発プロセスへの関与経験をつうじて、若手の会計担当者は、管理会計担当者に求められる「幅広い会計知識と会計データの利用を想像する力」や「統合的かつ全社的な視点から業務課題をみる能力」を身につけていった。この発見事項をもとに,研究論文の執筆を進めている。 会計専門家のプロジェクトでは、会計専門家の経営支援への同行調査(参与観察)やインタビュー調査からデータを収集することができた。会計専門家らは,中小企業への経営支援から得た現場知識をもとに,戦略実行の管理会計ツールであるSWOT分析やBSC(バランスト・スコアカード)を応用した経営支援ツールを開発していった。この経営支援ツールは,入力作業に熟練を要する専用ソフトではなく、だれでも扱えるスプレッドシートが基礎になっている。このツールを活用した経営支援では、会計専門家が経営者や管理者、従業員から経営目標や経営課題、行動計画を聞き出すアプローチをとっていた。
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