研究実績の概要 |
本研究の目的は、会計情報と株主資本コストの関係の探求を通して、資産価格理論における会計情報の有用性を明らかにすることである。2023年度も関連する先行研究の文献を調査し、そこで示されている会計情報と資本コスト(期待リターン)の理論的関係、実証分析の方法と提示された実証的証拠の含意を考察した。 主にファイナンス領域で発展してきた資本コスト研究では、各種ファクターを用いて資本コストを推定する方法が提唱されており、ファクターの中には会計情報を用いているものが含まれる。例えば、株主資本簿価/時価比率(B/P)を用いたHMLファクター(Fama and French, 1992)や、利益率を用いたRMWファクター(Fama and French, 2015)などがあげられる。しかし、なぜこれらの会計情報を用いたファクターがリスクと関連を有しているのかについての理論的説明は明示されてこなかった。 これに対して、実現原則や保守主義のもとで作成される会計情報がリスクと関連することに着目し、会計研究の側から会計情報と資本コスト(期待リターン)を結びつける研究が行われるようになっている。例えば、会計数値がリスクとその対価としての期待リターンの情報を反映していることを示唆する研究(Penman et al., 2018)や、リスクや期待リターンとの関連が想定される変数を特定し(Penman and Zhu, 2014)、それに基づいて翌期の期待リターンを推定する研究(Penman and Zhu, 2022)などである。一方、会計研究領域では資本コストを推定する方法として、インプライド資本コスト(ICC)法が検討されてきた。そのため2023年度は、ICC法を利用した株主資本コストの推定に関する研究とPenman and Zhu(2022)の期待リターン推定手法との比較検討を行った。
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