研究課題/領域番号 |
20K02022
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鳥羽 至英 早稲田大学, 総合研究機構, その他(招聘研究員) (90106089)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | audit history / stewardship / accountability / custodial responsibility / audit of accounts / agency theory / medieval audits / entrustment |
研究実績の概要 |
研究開始初年度2020年は、コロナ禍の影響で、当初予定していた海外の図書館での資料収集はできず、大きな変更を余儀なくされた。そこで最後の段階で予定していた監査史研究を行うための「概念的枠組み」の考察に専念した。とりわけ、今回の監査史研究が「監査学」という独立した学問領域の提唱に関係しているところから、この分野が監査学としての地位を得る為に必要な「学問の形・体系」を模索した。そしてこの学問体系において、監査史研究を位置づけた。 「監査学」が対象とする監査概念について、考察を行った。監査概念については、すでにアメリカ会計学会・基礎的監査概念委員会が定義を示しているが、そこでは監査が生成する基盤としての「社会的関係」についての考察が欠如しているため、今回の監査史研究の対象とする過去の監査実務を限定するため、「社会的関係」を「委託受託関係」(entrustment)に求めた。かくして、調査対象国において誕生したさまざまな態様の監査を、「委託受託関係」に根差した「受託責任」(stewardship)という統一の視点から分析することが可能となった。換言すれば、監査の世界史研究を貫く観点は「stewardship史観」である。 受託者が委託者に対して負っている受託責任を実質的に解除するという機能をもって、監査という行為の背後に存在する機能──この機能は、直接、監査報告書において明示的には示されていないので、黙示的機能 (implicit function)である──と捉えている。この解除機能が採りうる「型」を、委託受託関係を構成する当事者との関係において識別する作業を進行中であり、ほぼ、その目途がついた。したがって、監査史研究に入るための準備作業は、ほぼ゛完了したと考えている。ここまでが、2020年度における研究実績の概要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年2月頃から始まったコロナ禍によって、当初の研究計画の実行は大幅に影響を受けた。監査史研究に必要な史料の追加と再確認を求めて、New York, New Orleansの Public Labraryとイリノイ大学の中央図書館に行く予定であったが、2020年だけでなく、2021年も困難となった。 そのため、研究の順序を変えて、まず、監査史研究に関連して(1) 監査という分野が独立の学問として認識されるために必要な「学問の形」についての考察、(2)監査を生成基盤といえる委託受託関係(entrustment)と受託責任(stewardship)についての概念研究、(3)受託責任の解除機能としての監査の型を識別すること、そして(4)受託責任概念の現代的意味内容の解明に、まず取り組むことにした。そして、いくつかの成果をこれまで上げてきた。 今回の監査史研究は、わが国における江戸時代や明治期の監査も対象としているため、 それに関する文献と資料等を得るため、早稲田大学中央図書館において文献調査を行っている。コロナ禍により、利用時間に制約があるが、少しずつ成果を上げている。まだ、資料収集は始まったばかりであり、論稿の形にはなっていない。
監査史研究にとって、利用できる資料の制約という問題が避けられず、しかも、外出にも制約が多々ある。ただ、作業は全体として何とか進んでいる。特に大幅に遅れているという認識はない。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、2021年度中に、監査史研究の「枠組み」に関する研究に目途を付け、その結果を9月初めに予定されている日本会計研究学会全国大会(九州大学)において発表する予定である。そのための論文の作成が2021年度前半の作業であり、将来の研究報告書の第Ⅰ部とする。 もう一つは、中世英国から今日に至るまでの時代で、監査史として明らかにしておきたい監査の事例を中世英国、18-20世紀前半のアメリカ、そして明治期前後の日本に求めて、一つずつ論文として纏めるという作業である。この作業は、おそらく2022年夏休み前後まで続くと考えている。外国の監査史について第Ⅱ部、そしてわが国の監査史について第Ⅲ部を想定し、最後に、今回の監査史研究を通じて得られた成果(監査概念の理解に対する影響を含めて)を纏める章をもって、今回の研究を締めくくりたいと考えている。 なお、現在感じている厄介な問題は、英国中世における監査に関する史料にみられる記述──「中世英語」による監査規則、監査報告、議事録等の記述)──の解読の問題がある。ある程度解読できるが、最終的には、正確な訳出が必要である。これらの史料は、最終的な研究報告書の中に、そのまま引用する予定である。このための準備(勉強)をしておく必要があるが、外部の研究者の指導を受けることも考えている。 わが国の監査史研究に関連して、滋賀大学経済学部図書館と三井文庫の訪問(資料入手・補強)を追加・予定している。また、最終年度(2022)でも可能であれば、監査史料の追加と再確認をするため、上記の外国の図書館訪問を実現したい。、
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始初年度に、とりわけアメリカの植民地時代を中心に監査史研究に必要な史料(資料)の入手と確認を求めて、アメリカのNew York市とNew Orleans市のPublic Library2か所、およびイリノイ大学中央図書館を訪問する予定であった。コロナ禍における内外のさまざまな制約のために、海外渡航ができず、そのため計上していた旅費金額がそのまま未消化となった。 現在のコロナ禍の状況では2021年度においても海外渡航をすることは難しく、可能性があるとすれば2022年度の夏ではないかと考えている。なお国内渡航費については、これからの研究の進捗度にもよるが、いつかの地方の大学図書館を訪問する必要が生ずる可能性がある。
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