研究課題/領域番号 |
20K02022
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鳥羽 至英 早稲田大学, 総合研究機構, その他(招聘研究員) (90106089)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Stewardship / Audit concept / Entrustment / Exchequer audit / Manor and guild Audit / Colonial audit / Railroad Company Audit / Credit (bank) audit |
研究実績の概要 |
2020-2021年度の研究を通じて、①世界(欧米と日本)の監査をとらえる視点(枠組み)についての考察と、②英国とアメリカにおける監査についての歴史的分析は、おおよそ完了したものと考えている。 ①は、今回の研究において第1部として位置づけ、とりわけ監査の生成基盤である委託受託関係とそれに基づいて生ずる受託責任(stewardship)についての概念内容と監査の構造分析は一応完了している。②は第2部として扱い、そこではイギリスとアメリカを取り上げた。イギリスについては、16-19世紀において生起したExchequer制度下の監査、荘園監査、ギルド監査、そして19世紀前半の英国会社法下の監査についての考察は、ほぼ完了した。委託受託関係に基づく受託責任の視点から分析される監査は十分に主張可能である、と考えている。
アメリカに関しては、新大陸入植時の現地政府の監査、植民地時代の商社の監査、19世紀の鉄道会社の監査、20世紀初頭の信用監査はほほ終了し、1933年連邦証券法下の監査については、現在、作業中である。ただ、委託受託関係の視点から説明できない監査が信用監査である。この実務を「監査」と称してよいのか、という新たな問題に直面している。 以上の歴史的分析を進める一方、第1部において示した監査史分析の枠組みが有効であるかどうかについての検討およびそれを受けての修正・追加を行っている。全体としては、おおむね順調に進んでいるのではないかと考えている。すでに、これらの研究成果は、章ごとに、完全原稿の段階ではないが、研究成果として纏められている。なお、これまでの研究成果については、学会等でまだ公にはされていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度においては、英国とアメリカにおける監査が、どのような環境の下で監査が要請され、監査人が誰の利益の代表または代理として登場し、いかなる監査を実施していたかを、内外の経済史文献を基礎にして検討を行った。文献とりわけ史料の入手がなかなか困難で、とりわけイギリスにおける監査に関する記述と史料は少ない。
英国監査史の3ケースは全体としてほぼ完了したが、アメリカにおける信用監査(貸借対照表監査)の歴史的位置づけについては、わが国固有の独特の論争があり、それに関する本研究の立場を明らかにするため、予定以上の時間を費やした。信用監査を「監査」という概念で捉えてよいのか、という問題も新たに生じ、これらの検討を行うこととなった。アメリカの鉄道会社の監査は、文献・史料の面からは十分であるが、さまざまな態様の監査が出現し、それをどのように第1部の「枠組み」の中で説明するかに関して、当初予定していた以上に時間がかかった。アメリカでは会社法が会計と監査を規制するという状況は極めて弱く、そのため、監査の導入に関して、法に規制されないさまざまな状況が生じた。 アメリカ連邦証券法(1933)下の監査がいかなる状況の下で導入されていたかについては、多くの内外の監査文献は、必ずしも深度ある研究結果を提供していない。むしろ多くの場合、連邦証券取引所法(1934)と併せて研究されているようである。そのようなこともあり、本研究では、アメリカの当時の監査環境を視野に入れながら、法による監査規制に進んでいく状況(背景)をできるだけ詳しく説明することとした。現時点において、この作業は完了していない。関連する米国議会の報告書も多くあり、体系的な取り扱いに苦労している。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカにおける連邦証券法下の監査をまず完了させ、本研究第Ⅲ部として「我が国における監査の生成」を、できるだけ広範囲に捉えていく予定である。徳川幕府における監査制度、近江商人(商家)における監査、旧商法が制定される前の法規制のなかったころの会社の監査、旧商法下の株式会社の監査、日本初の国立銀行と私立銀行における監査、会計検査院監査、戦後の証券取引法監査(制度監査と正規の監査に分けて)、地方自治体の監査等を、第Ⅱ部における歴史研究と同様の視点で、分析・解明していく予定である。 以上の歴史的分析が終了した段階で、最終章において、監査の歴史研究と監査学と関係について、総括的な検討を行う予定である。まずは、日本の歴史的研究を可能な限り早く終え、今回の監査史研究をまとめる議論に移りたいと考えている。 以上が完了すると、今回の基盤研究Cにおいて予定した課題はすべて終わることになるが、この研究成果の出版を考えているので、これまで作成した原稿をはじめから、図表のチェックや文献の確認等、レビューする作業を予定している。わが国の監査ケースの数は多いので、まずはこれらを終えることに専念したい。研究計画の変更等が必要とされる状況には至っていない。 今後の研究に関して、たとえばA Conceptual Framework for Stewardship Audit といった英語による監査研究につながるような研究成果と新たな課題(漠然としているが)が、今回の基盤研究Cで得られるのではないか、と期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
最大の理由は、当初予定していたアメリカにおける文献収集が、コロナ禍が理由で、全くできず、また、国内の学会開催においても、on-line開催となり、旅費等が生ぜず、したがって、研究費は、本代、コビー代、トナー代、そしてパソコン機器の購入に限定されたためである。コロナの状況を見ながら、可能であれば、最後の文献チェックに、イリノイ大学とNew York Public Libraryでの文献調査を実施したいと考えている。
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