産業材取引において組織間の接点となる境界連結者(バウンダリースパナー)は、組織内および組織間の二重のマネジメント・コントロールの影響下に置かれることになる。当該年度は、これまでの研究成果を踏まえ、以下の2点について精緻な分析を行った。まず、組織間におけるサプライチェーンマネジメント実践として、2種類の活動(コントロール活動と調整活動)が、境界連結者が認識する役割葛藤と役割曖昧性に影響を与えるかどうか、また組織内におけるマネジメント・コントロールの構造によって、上記の関連性をいかに調整されるか(モデレートされるか)を検討した。分析の結果、日本において産業材取引を行う営業部門担当者384名を対象とした質問紙調査に基づき、組織間のコントロール活動とコーディネーション活動が役割葛藤と役割曖昧性に対して対照的な影響を与えることを明らかにした。具体的には、コントロール活動の実践は役割葛藤を促進し、役割曖昧性を抑制する。一方、コーディネーション活動の実践は、役割曖昧性のみを緩和することが分かった。さらに、組織内マネジメント・コントロールの仕組みによって、組織間コントロールと役割葛藤との間の関係性が調整されることが明らかになった。本研究が示唆するところは、営業部門で顧客収益性指標を使用することによって、組織間コントロール活動が境界連結者の役割葛藤をより増加させることを意味する。したがって、本研究は、組織内・組織間のマネジメント・コントロールの二重構造の意味を検討し、それが組織間取引の境界連結者に対してどのような認知的あるいは心理的負荷をもたらすかについての理解を深めたといえる。
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