本研究の目的はミクロレベル(個別企業)の会計情報を集約(aggregate)して作成したマクロレベルの会計利益情報(集約利益)を用いて以下の3点を解明することにある。(1)集約利益を用いてマクロ経済指標(GDP、設備投資、消費、賃金等)の将来予測が可能か否かを検証すること、(2)集約利益と将来のマクロ経済指標の因果関係およびチャネルを特定すること、(3)上記の点に関するグローバル分析をすることである。 (1)および(2)については、研究書『マクロ実証会計研究』(日本経済新聞出版)を東北大学の吉永裕登准教授との共著という形で刊行することができた。 (3)については、やはり吉永准教授との共著で、国際査読誌であるAsia-Pacific Journal of Accounting & Economicsに論文が掲載された。この論文では、世界21か国の四半期財務報告データを用いて、集約利益およびその分解構成項目(利益率指標、効率性指標)が将来のGDP成長率を予測するうえで有用である点を析出している。加えて、リーマンショックやCOVID19などのショックの影響をモデルに組みこむことで、集約利益のGDP予測能力を向上させることが可能である点も明らかにできた。 研究が予想以上のペースで進展したため、追加的に集約利益を用いた新しい研究領域にも着手することができた。具体的には、市場ベータと対比する形で「会計ベータ」を測定し、当該指標の有用性を分析した。この研究は一橋大学大学院生の縄田寛希氏との共同研究として、『証券アナリストジャーナル』誌に掲載された。
|