当初計画では、本研究の目的を、財務諸表監査に関する国際基準の設定に対する各国利害関係者の関与の程度がその国における国際基準のインプリメンテーションの有効性に与える影響を検討することとし、研究手法として、幅広いステークホルダーへのインタビューを行うことを予定していた。しかし、新型コロナウイルスの影響により、グローバルにインタビューを実施できなかった。そのため、研究目的および研究手法を大幅に修正することとした。具体的には、研究の焦点を、基準設定プロセスにおけるステークホルダー間のインタラクションに当てることとするとともに、国際基準の公開草案に対するステークホルダーからのコメントの分析を行うこととした。 具体的には、内容の重要性とデータの入手可能性に鑑みて、国際会計士倫理基準審議会が最近取り組んだ2つのプロジェクト、すなわち、「非保証業務」と「報酬」を分析の対象とすることとした。 設定した仮説は、(1)規制主体および情報利用者は、職業会計士および情報作成者よりも厳しい基準を求める、(2)基準設定において、規制主体の意見は、その他のステークホルダーの意見よりも重視される、(3)基準設定主体のメンバーの出身国のステークホルダーは、基準設定主体が作成する基準案に賛成する程度が高い、の3つである。 「非保証業務」と「報酬」の2つのプロジェクトにおいて、国際会計士倫理基準審議会が公表した公開草案に対してステークホルダーから書面で提出されたコメントを対象としてテキスト分析を行った。具体的には、コメントを単語レベルに分解し、基準案に対する「賛成」と「反対」に分類した。さらに、「反対」は、より厳しい規定を求める反対と、より緩やかな規定を求める反対とに分けた。 分析の結果、仮説(1)と仮説(2)については部分的には支持されたが、仮説(3)は支持されないことが明らかとなった。
|