研究課題/領域番号 |
20K02035
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
岡崎 英一 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(総合グローバル), 教授 (80233310)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 裁量的行動 / 自己組織化写像 / 公表財務データ / 企業分析 |
研究実績の概要 |
本研究は,企業の公表財務データを基にして自己組織化写像による企業分析を行い,粉飾や,不適正会計処理等の経営者の裁量的行動の検知方法を開発することを目的にしている。 ①令和4年度は,令和3年度に引き続き,これまでに構築したデータセットを元に,実権群と比較群に分けて,本研究の主目的である,対象企業の裁量的行動の有無の把握,その際に選択される会計手続きの特徴,及びその財務的な背景等の特徴等について,自己組織化写像を用いて分析する手法の精緻化等の研究を行っている。 ②これまでの研究において,企業規模及び資産規模の異なる場合には本検知方法が妥当しないことが明らかになっている。この点を補正するために,自己資本比率の大きさに着目してサンプル企業をグルーピングして分析したところ,自己資本比率の高い企業においては,本研究の分析手法は必ずしも妥当しないことがあるが,自己資本比率の低い企業においては,本研究の分析手法が適用可能であることを示唆する結果が得られた。そこで,令和4年度では,その理由及び検知可能性が低くなる閾値について研究した。閾値については,まだ十分な結果は得られていないが,その理由については,自己資本が営業損益に比べて大きい場合に,これまでと同様な経営活動を行うこが可能なこと,あるいはそのような経営活動を経営者が志向することが可能なことから,必ずしも経営者の裁量的行動ではないにも係わらず,本検知方法において裁量的行動として検知される可能性があるとの仮説の検討を行っている。 ③また,裁量的行動の検知をより精緻化するために,個々の会計手続の選択についての企業の裁量的行動の可能性を検知する研究について,企業の行動モデルの仮説について,引き続き検討したところ,営業損益もしくは経常損益を操作する会計手続きに関して,何らかの関係がある可能性を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで本研究の目的である自己組織化写像を用いて,経営者の裁量的行動の検知をおこなう手法の確立について理論的には可能であることは判明しているが,しかし①企業規模及び資産規模の異なる場合には裁量的行動を十分に把握できないことが,研究を通じて明らかになっている。この点について,これまでの研究において,自己資本比率と営業損益で分類することで対応することができるのではないかとの仮説に基づき,自己資本比率と営業損益の高低における企業行動モデルと裁量的行動,及び裁量的行動に踏み切る閾値について分析を行い,それを踏まえてより精緻な裁量的行動の検知の可能性について研究を進めている。また②自己組織化写像を用いて,どのよう会計処理方法の選択において裁量的行動がなされている可能性があるのかについて研究を進めている。しかし③コロナ下のため,現在の研究内容について,研究会や他の研究者と議論・批判等が十分になされておらず,本検知方法について,第3者からの評価を十分に得ているとはいえない。令和5年においては,これまでまとめた研究内容を,積極的に外部と議論等を行い,第3者的な観点からの評価を受けて,より精緻な形にする必要がある。 以上のことを総合的に評価すると,現在の研究状況を踏まえて,本研究期間全体としては,本研究の目的であるところの,自己組織化写像を用いた裁量的行動の把握の分析ツールを使用可能なものにすること,及びその他の様々な分析においても信頼性のある分析ツールであること明らかにすることは可能あると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は,本研究を最終年で有り,以下のような研究を進める予定である。 ①これまでの自己組織化写像を用いて分析する手法について,令和4年では十分に明らかにできなかった自己資本率と営業損益の閾値について検討を行い,この分析手法の実用可能性等について考察する予定である。 ②自己組織化写像を用いた個々の会計処理に関するより精緻な検知方法を考案する予定である。 ③以上を通じて,本研究の目的であるところの,公表財務データを用いて,自己組織化写像を用いた裁量的行動の把握の分析ツールを使用可能なものにすること,及び自己組織化写像がその他の様々な分析においても信頼性のある分析ツールであることを明らかして,本研究のまとめとしたいと考えている。また,本年度は,これまでの研究結果についての論文を公表準備中であり,令和5年度中に刊行を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,福井大学で会計学を学ぶ学生等を研究補助員として予定・準備していたが,令和4年度は,新型コロナのため,事前に予定していた財務データの整理を行う学生を研究補 助員として雇用ができなかった。またコロナにより他の研究者との相談や研究会等への参加等,研究内容をより深化させるための活動が行えなかったためである。令和5年度は,コロナも収束したと考えられるため,今年度は従来通りの研究活動を行うことが可能なことから,昨年度未執行分を令和5年度に執行する予定である。
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