研究課題/領域番号 |
20K02037
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村宮 克彦 大阪大学, 経済学研究科, 准教授 (50452488)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ディスクロージャー / 高頻度取引 / インサイダー取引 / 決算発表 / 情報トレーダー |
研究実績の概要 |
二年目にあたる本年度は,主として次の三つの研究に注力した.
(1)推定されたGPINの特性分析 - 私的情報を有するトレーダーの取引動向を把握するのに,従来からいくつかの方法が提案されている.本研究課題では,近年注目を集めているGeneralized PIN modelを利用して,日本市場の銘柄ごとに私的情報に基づく取引確率(以下,GPIN)を推定した.本年度は,こうして推定されたGPINが,情報トレーダーの取引を反映しているか否かを評価するため,インサイダー取引日周辺でGPINの高まりが見られるかを検証した.この研究は,日本会計研究学会第80回大会にて成果報告を行った. (2)GPINと株式リターンとの関連性 - GPINが情報リスクを反映し,それが適切に価格形成に反映されている限り,GPINが高い銘柄ほど,将来の株式リターンが高い傾向にあることが期待される.GPINに限らず,様々な情報リスク尺度とリターンとの関連性を分析することにより,日本市場において情報リスクがプライシングされているかを評価した.この研究は,日本経営財務研究学会第45回全国大会,並びに上記(1)の研究結果と併せて大阪大学数理・データ科学教育研究センターのワークショップ「証券市場の諸問題」にて成果報告を行った. (3)異常ボラティリティ・ベースの情報リスク指標の探求 - GPINは,複雑な数値計算を伴い,取引が活発な銘柄に推定が限定されることが難点の一つとして挙げられる.そこで,本年度に遂行した三つ目の研究として,決算発表日周辺とそれ以外の平時の株価のボラティリティとを比較することにより,簡便的に情報リスクを定量化する試みも行った.そこでは,異常ボラティリティ・ベースの情報リスク指標とGPINとの関連性や,将来リターンとの結びつきを分析するなどし,いくつかの重要な発見事項があった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,研究実績の概要欄に記載の(1)と(2)の研究を当初の計画通りに学会報告を行えたこと,また,それとは別に(3)の研究も新たに開始できたこと,以上の二点の理由により,おおむね順調に進展していると評価することができる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策については,以下のように要約することができる.
・本年度に学会にて成果報告を行った研究については,そこで得られたコメントを適切に研究へと反映することにより,査読誌への投稿を進める. ・一方で,前年度から継続的に研究を続けることで,着実に研究結果が得られつつある下記の研究群については,最終年度において学会発表を経て,査読誌への投稿を進め,本研究課題の目的の達成を目指す. (a)既に構築が終了している1分間隔の株価,気配値,約定件数などが収録されたデータセットを基に,業績予想修正の開示を始めとする会計イベントを対象に,取引システムの高速化が市場の効率性を高めたか否かの検証. (b)GPINの推定結果を利用して,日々の情報トレーダーの取引動向を適切に把握することにより,各種の会計ディスクロージャーの以前に,会計情報がどのように株価に織り込まれているかを分析し,そうした事前の取引動向が開示後の株式リターンの動向にどのような影響を及ぼしているかを分析.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)新型コロナの影響により,参加や報告予定であった学会がオンライン開催となったため,当初の予算計画を変更することになり,10万円弱の次年度繰越が生じた. (使用計画)次年度は海外査読誌への投稿を目論んでいるため,英文校閲の金額がかさむことが予想される.繰越分はそれに充当する予定である.
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