研究課題/領域番号 |
20K02041
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
石川 博行 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 教授 (60326246)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ペイアウト政策 / 配当政策 / コスト・ビヘイビア / コスト粘着性 / 収益性シグナリング仮説 / 資源調整コスト仮説 / 帝国建設仮説 |
研究実績の概要 |
近年、増収時のコスト増加額より、同額減収時のコスト減少額の方が小さいという非対称なコスト・ビヘイビア(コスト粘着性)が注目されている。本研究は、日本企業のコスト粘着性がペイアウト政策とどのような関連性を有しているのかを実証的に解明することを主たる研究課題としている。所定の条件を満たす1994年~2017年の上場企業、延べ55,022企業年を分析対象サンプルとして、コスト粘着性尺度を主たる説明変数、配当を被説明変数とする回帰モデルを推定した結果、初年度は主として、以下の証拠を得た。 第1に、日本企業のコスト粘着性と配当の間に、統計的に有意なプラスの関係が存在するという証拠を得た。米国企業を分析対象としたHe et al. (2018) とは真逆の結果であり、日本企業については、収益性シグナリング仮説の妥当性が相対的に高いことを示唆している。日本企業のコスト粘着性の高さは、高い配当水準と同様、将来業績に対する経営者の自信の表れとして解釈できる。 第2に、コスト粘着性と配当の間のプラスの有意な関係は、短期的な成長性は低いが、長期的には高い成長が期待される企業でのみ検出されるという証拠を得た。そのような企業は、高い水準の配当や粘着性が高いコストといった、相対的により大きなコストを支払うことによって、長期的な成長期待をアピールしていると解釈することができる。 収益性シグナリング仮説の妥当性は、配当のみならずコスト粘着性にも、将来業績を予測する追加的な能力が備わっているという実証結果からも裏付けることができる。日本企業のコスト粘着性には、将来業績に対する経営者の自信という、配当と同様の情報内容が含まれていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、日本市場の実際のデータを用いて、コスト粘着性とペイアウト政策の関連性を実証分析するものである。初年度は、関連分野の論文のサーベイを行いつつ、同時並行的に、すでに保有されている年次データを用いてパイロット・テストを実施した。その実証結果をまとめたワーキング・ペーパーを内外の研究者に配布し、内外の研究者と意見交換した。2年目以降の本格的な分析を行うためのリサーチ・デザインの構築に際して、初年度の研究成果が与える貢献は大きい。以上から、研究活動はおおむね順調であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果に対して得たコメントに基づいて、すでに初年度の実証分析の精緻化を図っている。また初年度の研究成果を踏まえた上で、本研究課題のリサーチ・デザインを構築する。その後、データベースが完成次第、本研究課題の実証分析に取りかかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウィルスの感染拡大により、勤務先への入校や国内外の出張ができなかったためである。当初の予定より、当該研究の遂行に必要な物品費の購入が大幅に減少し、旅費も大幅に減少した。
(使用計画)次年度に使用する予定の研究費は、初年度の実証分析を精緻化させた上で、英文ジャーナルへの投稿(翻訳費用、投稿費用)や国内外での研究報告(旅費)への支出を予定している。なお、最新のデータに基づく証拠を提供することが実証研究においてとくに重要であることに鑑みて、初年度に購入したデータベースを更新するとともに、東京証券取引所等に出張して最新データを収集する。
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