研究課題/領域番号 |
20K02041
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
石川 博行 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 教授 (60326246)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ペイアウト政策 / 配当政策 / コスト・ビヘイビア / コスト粘着性 / 収益性シグナリング仮説 / 資源調整コスト仮説 / 帝国建設仮説 |
研究実績の概要 |
利益がペイアウト政策の主要な決定要因である以上(Lintner 1956; DeAngelo et al. 2008)、その計算要素であるコストがペイアウト政策と何らかの関連性を有していると考えるのは不自然ではない。コスト・マネジメントもまた、ペイアウト政策と同様、経営者の重要な意思決定に属するものだからである。そのコスト態様として、近年、増収時のコスト増加額より、同額減収時のコスト減少額の方が小さいという非対称なコスト態様(以下、コスト粘着性)が注目されている(Banker and Byzalov 2014; Banker et al. 2018)。本研究の目的は、日本企業のコスト粘着性がペイアウト政策とどのような関連性を有しているのかを実証的に解明することである。 配当を被説明変数、コスト粘着性尺度を主たる説明変数とする回帰モデルを推定した結果、まず、コスト粘着性と配当水準の間に統計的に有意なプラスの関係が存在することを発見した。また、短期的な成長性は低いが、長期的には高い成長が期待される企業でのみ、このプラスの関係が検出されるという証拠を得た。そのような企業は、高い水準の配当や粘着性が高いコストといった、相対的により大きなコストを支払うことによって、長期的な成長期待をアピールしていると解釈することができる。この収益性シグナリング仮説の妥当性は、配当のみならずコスト粘着性にも、将来業績を予測する追加的な能力が備わっているという実証結果からも裏付けることができる。日本企業のコスト粘着性には、将来業績に対する経営者の自信という、配当と同様の情報内容が含まれていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、日本市場の実際のデータを用いて、コスト粘着性とペイアウト政策の関連性を実証分析するものである。2年目は、関連分野の論文のサーベイを行いつつ、日本企業のデータを用いて実証分析を行い、その実証結果を学術雑誌『會計』に掲載した。最終年度の分析を行うためのリサーチ・デザインの構築に際して、2年目の研究成果が与える貢献は大きい。以上から、研究活動はおおむね順調であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の研究成果に対して、内外の研究者から得たコメントに基づいて、最終年度では、リサーチ・デザインの精緻化を図る。データベースが完成次第、本研究課題の実証分析に取りかかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウィルスの感染拡大により、勤務先への入校が制限され、また国内外の出張ができなかったためである。当初の予定より、当該研究の遂行に必要な物品費の購入が大幅に減少し、旅費も大幅に減少した。
(使用計画)2年目の実証分析を精緻化させた上で、英文ジャーナルへの投稿(翻訳費用、投稿費用)や国内外での研究報告(旅費)への支出を予定している。なお、最新のデータに基づく証拠を提供することが実証研究においてとくに重要であることに鑑みて、2年目に購入したデータベースを更新するとともに、東京証券取引所等に出張して最新データを収集する。本研究では、膨大なデータの蓄積・解析に耐えうる情報機器が必要であり、最新のPCや大容量記憶媒体を購入する(設備備品費)。
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