研究実績の概要 |
本研究は、日本企業のコスト粘着性がペイアウト政策とどのような関連性を有しているのかを実証的に解明することを目的としている。米国企業を分析対象としたHe et al. (2018) は、コスト粘着性と配当水準の間に統計的に有意なマイナスの関係を発見しているが、日本企業の年次データおよび四半期データを用いて同様の検証を行った石川 (2021, 2023) は、両者の間にプラス有意の関係が存在することを発見している。この結果は、日本企業のコスト粘着性に、将来業績に対する経営者の自信という、配当と同様の情報内容が含まれていることを証拠付けている(収益性シグナリング仮説)。 最終年度は、コスト粘着性と株価の関係を検証することを通じて、コスト粘着性に関する収益性シグナリング仮説の妥当性を検証した。具体的には、Ohlson (2001) モデルに依拠した回帰モデルを推定することを通じて、次の事実を発見した。①日本企業のコスト粘着性は、他の条件を所与としてもなお、将来の好業績に対する経営者の自信を表すシグナルとして、追加的なプラスの評価を受けている。②コスト粘着性が高い企業の利益の価値関連性は相対的に高くなる。③コスト粘着性が高い企業の次期増配シグナルは、将来の好業績に対する経営者の自信が相対的に高いと評価され、プラス・アルファの評価を受けている(コロボレーション効果)。以上の結果は、日本企業のコスト粘着性について、収益性シグナリング仮説で説明できることを示しており、石川 (2021, 2023) の証拠と整合する。
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