本研究の目的は、世界各国で導入されている交際費の損金不算入制度が、企業の接待交際活動の水準や報酬契約などにどのような影響を与えるかを分析することである。これらの活動は企業価値を生み出し、活動自体が消費財の性格を持つためエージェントに利益をもたらすので、プリンシパルはエージェントにインセンティブを課して働かせることと、交際活動の損金不算入による税支払いのトレードオフに直面する。さらに本研究では、税務当局の行動を考慮し、税務当局が損金不算入比率を柔軟に変更できる場合を分析する。
主な結果は以下の通りである。Katusc(2004)とは異なり、法人税率の変化は、費用が全額損金算入できない場合の報酬契約に影響を与える。これは、税率が上昇した場合、プリンシパルは、損金不算入となる経費が発生する活動を抑制することで、追加的な納税を回避しようとするためである。さらに、税率がインセンティブ率に与える影響は、損金不算入率の柔軟性に依存する。損金不算入率が硬直的(外生的)であれば、法人税率が上昇すると、インセンティブ率は低下するが、柔軟(内生的)であれば、法人税率が上昇すると、損金不算入率が低下し、インセンティブ率が上昇することによって税収が増加し、より多くの事業活動を促す。控除対象外費用に対するエージェントの選好の影響も、損金不算入率の柔軟性に依存する。硬直的な場合、控除対象外費用に対するエージェントの選好が高まれば、常にプリンシパルの期待効用が高まる。一方、柔軟な場合、控除対象外費用に対するエージェントの選好が強ければ強いほど、政府は控除対象外比率を引き上げることで活動を抑制し、プリンシパルの期待効用を低下させる可能性がある。
2023年度は、この研究成果をJournal of Accounting and Public Policy誌に再投稿し、アクセプトされた(出版は2024年度)。
|