本研究は韓国出身者に対する排外意識の高揚が生じたメカニズムについて、潜在的偏見の抑制-表出に着目し、検証することを目的としている。オンライン調査にIATを組み込むことで、潜在的偏見と顕在的偏見を同時に測定した。その結果、日本における韓国人への偏見は、潜在的/顕在的偏見ともに高かった。また、政治的関心が高い層や、一部のコーホートにおいて、潜在的偏見が低いにもかかわらず、強い顕在的偏見を示す層が存在した。つまり、日本においては「韓国人に対して否定的な態度をとる」ことがむしろ規範となっている可能性がある。ただし、回答時間の変数を用い、熟慮が偏見の表出に与える効果を検証したところ、熟慮の結果として偏見の表出を抑制する傾向も確認され、偏見を抑制しようとする規範の存在も示唆された。これらの結果を論文にまとめ、一部についてはすでに学術誌への掲載が決定している。さらに、これらの偏見の表出-抑制に影響する外的要因として、他者の行動から判断される「記述的規範」に着目し、その影響を検証するためのサーベイ実験を実施した。具体的には対象者に韓国人に関連するオンラインニュースの記事と、それに対するコメントを提示し、それを読んだうえで、韓国人に対する態度を尋ねた。その際、韓国人に対して肯定的/否定的なコメントの割合を操作し、それが対象者の韓国人に対する態度に与える影響を検証した。その結果、韓国人に対する顕在的偏見は他者がどのような態度を示しているかに影響を受けるものの、ヘイトスピーチ規制に関する記事の場合はコメントによらず顕在的偏見が抑制された。この結果は、偏見の表出における記述的規範の影響を示すとともに、ヘイトスピーチ規制が「命令的規範」として機能していることを示唆している。これらの結果は学会および学術雑誌での公表を予定している。
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