従来の「日本的雇用慣行」が批判され、正規雇用者と非正規雇用者の「不合理な待遇差の解消」を目的とした職務給(ジョブ型)の導入に関心が集まっている。しかし、筆者が注目する理由はそれだけではない。職務の範囲を限定することにより、過度な労働や過剰な介入から「身を守る」ことが可能か、という点からである。職務給を業界全体であるいは大規模組織で全面的に採用してきた日本企業の事例は、管見の限り存在しない。労務管理研究をはじめ、労働(者)研究や基地問題研究も完全に見落としてきたわけだが、ある意味「日本であって日本ではない」在日米軍基地において、職務給が採用されてきたのである。 昨年度は、労働組合中央本部の動きを中心に、基地の労働運動の歴史を概観した。本年度は、基地が点在する地方に目を向け、各基地における職場運営上の問題と労働組合の対応を、現在のコロナ禍までの20年間に限定してみた。その調査結果によると、「職務給」が導入されても、業界全体や組織の統一的な活動に加えて、地区や工場ごとの交渉、職場次元のケア、労働者の毅然とした態度など、各事業所・各職場・各人の対応なくしては、労働者の権利は守られないということが明らかになった。加えて、地方新聞の記事を通して、基地組織内の問題を地域社会で「共有する」ことの重要性も示された。 基地の労働者たちは、国際情勢や日米関係の下、不安定な働き方を強いられてきた。しかしながら、むしろだからこそ、自分たちの雇用環境や労働条件を改善するために闘ってきたのである。このことは、なかでも沖縄基地の労働者にあてはまる。この事実は翻って、制度問題や制度選択に矮小化されている「働き方改革」の限界を浮き彫りにし、少なからず示唆を与えることができた、と考えられる。
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