本研究では介護保険サービスを提供する訪問介護サービスの担い手が置かれている構造的脆弱性について、理論的、実証的に考察してきた。最終年度は、2022年7月に訪問介護事業所及び労働者へのアンケート調査を実施し、訪問介護事業全体が直面している課題について明らかにし、「コロナ禍での訪問介護事業に関する調査報告書」にまとめた(調査票は5000の訪問介護事業所に郵送で配布し、有効回答数はn=664、回収率は13.9%)。法人格によって提供しているサービスの内容、経営状況が異なり、非営利の社会福祉協議会などがもっとも「割に合わない」サービスを提供していることがわかった。また地域間格差も大きく、利用者宅までの移動のためのコストや時間のかかる町・村部で経営がより厳しい状況であることが明らかになった。地方での聞き取り調査からは、遠距離移動についても事業者間格差があることがわかっている。以上から現行の介護報酬の仕組みでは、営利追求型の事業所のクリームスキミングが可能になっており、利他的な事業所ほど「退出」のリスクを背負っていることが明らかになった。すなわち,選択と競争による質の向上という市場化の論理とは別の形で「退出」が起きている。 これらの考察の成果は以下の論文で公表している。「ケアのコストを支払うのは誰か:介護保険制度下の訪問介護労働」『女性労働研究』67 pp.34-50 2023.3 /「新自由主義とケア労働」『大原社会問題研究所雑誌』771 pp. 29-43 2023.1 法政大学大原社会問題研究所 「角能『ケアをデザインする』」『社会政策』14(3) pp.168-171 2023.3 /「ホームヘルパー国賠訴訟意見書」『賃金と社会保障』 1822 pp.35-40 2023.3 /「訪問介護サービスは「家族介護」を救うか 介護保険制度の矛盾を背負うホームヘルパー」『生活経済政策』314 pp.17-20 2023.3
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