研究課題/領域番号 |
20K02072
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
内藤 準 成蹊大学, 文学部, 准教授 (00571241)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 社会ネットワーク / ソーシャルサポート / 一般的信頼 / 特定化信頼 / 自由 |
研究実績の概要 |
2022年度は以下の作業をおこなった.①データ分析スキルの修得,②学内でのパネル調査の継続,③2021年度データの分析結果の学会報告,④新卒社員を対象とするウェブパネル調査.以下説明する. ①について,本研究ではパネル調査データを使用するため,いくつかの統計分析セミナーにおいて,パネル調査データの分析手法を修得した. ②は,昨年度から引き続いての調査である.本研究では,「信頼」が「ネットワーク形成」に与える影響について分析するため,「先行する信頼」の状態と「後続するネットワーク」の状態についてのデータを取得する必要がある.そこで,所属大学の新入生を主な対象としたパネル調査を2021年度より開始した.2021年度調査データの分析結果については学会報告をおこない(③),さらに結果を検証するため2022年度も同僚教員の助力を得ながら学内パネル調査を継続した. ③2021年度以降に6波にわたっておこなった学内パネル調査データの分析結果について,学会報告をおこなった.分析の結果,(1)大学入学後のネットワークサイズの変化と一般化信頼の変化には関連がある,(2)平均して信頼が高い人はネットワークサイズも大きい傾向があることが明らかとなった.この結果は,焦点となる仮説(先行する一般的信頼がネットワーク形成を促す)と矛盾しないが,(3)一期前に信頼が高くても一期後のネットワークサイズの増加分が大きくなる関連はなかった.その一方,(4)信頼の初期値とネットワークサイズの初期値には強い関連があった.このことは,一般的信頼の効果が主として「集団加入の極初期」に作用するという新たな仮説を示唆するものであった. ④この新たな仮説のアイデアに基づき,集団加入の前から調査を開始するため,新卒社員を対象とするウェブパネル調査を開始した.この調査は2023年度の5月にかけておこなっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は,コロナ禍の経過を見極めながら,可能な方法で調査を再開することを試みた.本研究課題のテーマは「社会関係の形成」であることから,2020年度の新型コロナ禍発生以降,人流の制限や対人接触機会の大きな変化があるなか,当初計画通りの方法とスケジュールで,妥当性があり信頼性の高い社会調査を効果的におこなうのは難しい状況にあった. とくに,社会調査の実査の実施については多額の予算が必要となることから,2022年度も,12月までの時期にかけては本研究課題の直接経費からの支出は最小限にとどめ,調査準備のための研究をおこなったほか,予算が不要な既存データの分析を中心におこなった. その後,4月にかけて,可能な方法としてあらたなウェブ調査の実施にこぎ着けた段階である。これは当初の計画であった,ランダムサンプリングによる自治体住民に対する調査とは異なる発展的なものだが,当初計画通りの調査については今後さらに実施の可否および有効な実施について検討していく必要がある.以上のことから,研究の進捗としては「やや遅れている」に該当すると考えられるが,上記の通り予算の多くは計画的に温存しており,今後,研究期間の延長を含めて有効な研究方策を検討している.
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今後の研究の推進方策 |
3年間のコロナ禍により,調査当初の調査計画を基準とすると,2ないし3年の後ろ倒しとなっているが,上述した発展的なウェブパネル調査の実施を皮切りに,研究期間の延長も視野に入れながら,研究計画を前向きに進めていく. ランダムサンプリングによる郵送調査については,(1)調査時期の見なおし,(2)オンライン調査・オンライン実験などの代替的な研究手法の実施という両面からの検討をおこなう.本研究では当初,5年間で2波のパネル調査を東京都内の自治体においてランダムサンプリングでおこなう予定だった.2023年度はコロナウイルスの5類移行などにより,コロナ以前の状況に近づいていると考えることもできることから,以前からの調査実績のある東京都八王子市を候補地としてネットワークサイズやサポートの有無,「一般的信頼」と「特定化信頼」,「利他性」や「平等主義」などの社会的動機,「条件付き協力」などの戦略的態度,社会経済的地位(SES)などを中心とした新たな郵送調査実施の可能性を検討する. ただし,2021年度から2022年度にかけて学内での予備的なパネル調査をおこなった結果によると,既存の社会関係ができあがっている自治体住民を対象として1年ないし2年という短いスパンで2波のパネル調査をおこなっても,十分なネットワークサイズの変化が検出できない可能性がある.そのためおこなった「新卒」対象者のウェブ調査は上述の通りであるが,その結果を受けつつ,今後は「オンライン実験」による新たなデータ取得の可能性についても発展的に検討していく.オンラインでの実験・調査は,実施が容易であるという大きなメリットがあるうえ,適切な無作為化をおこなうことができれば,いわゆる因果的な効果の推論に向いているというメリットもある.上記の自治体調査とともに,オンライン調査・実験の有効な導入について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は以下の通りである.先述の通り,2022年度も新型コロナ禍の経過を注意深く見守りながらの研究実施となった. 本研究課題は「社会関係の形成」をテーマとするものであるが,コロナ禍の外出および社会活動自粛の条件下では,対人接触機会やその内容などネットワーク形成にかかわる活動が極めてイレギュラーなものになる.そのため,当初計画した郵送調査をおこなっても妥当かつ信頼性のあるデータを取得できる見込みが極めて低く,研究の有効な実施の見通しが立つまでは予算を極力温存するという方針をとってきた. 今後の計画としては,調査時期を2年程度後ろ倒ししての郵送調査も実施を念頭に検討を行うほか,2021年度以来,導入を進めてきたオンライン実験・調査についても実施を検討する.コロナ禍にかかわる社会的な状況が変化し,ようやく,コミュニケーションとネットワーク形成という社会的相互行為の条件の安定化の目処がたってきた.このような状況の前向きな変化を受けて,研究期間の延長も含め,有効な研究費の支出計画を練っていく.
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