研究課題
本研究の目的は、物質性の哲学の展開を社会学に導入することで消費社会論を理論的に刷新し、記号理論とは異なる仕方で「モノの倫理的消費」を再評価することである。本研究プロジェクトでは「消費社会論研究会」を組織して定期的な研究会を開催するとともに、担当するサブテーマごとに調査や文献研究、そして原稿執筆を進めた。今年度は、ブリュノ・ラトゥールの物神事実崇拝の概念を中心に、物の物神性と倫理的消費の関係をめぐって研究を進めた。マルクス以来、物神崇拝(フェティシズム)の概念は、商品への欲求を虚構・倒錯に過ぎないとして消費社会を批判するキーワードとして使用されてきた。だが、ラトゥールは〈物神事実〉という造語によって、物神と事実は切り分けられないと主張し、物神を虚構としてではなくリアリティの構成原理として捉える。この〈物神事実〉という視点転換を消費社会論に導入し、倫理的消費やサステナブルな消費と呼ばれる消費の在り方を、あらためて位置付け直したことが今年度の主要な研究成果である。倫理的消費は「消費社会の物神崇拝の打破」かのように考えられてきたが、しかし実際には逆であり、新たな物神崇拝として捉えられなければならない。それは倫理的消費を「所詮は虚構に過ぎない」として批判することではなく、環境や社会への配慮そのものが〈物神事実〉の構築として捉え直されねばならないという視点転換を提供するものである。この〈物神事実〉という観点の導入によって、本研究課題は大きく進展した。研究代表者は本年度、イギリスで開催されたフェアトレード国際シンポジウムに出席するとともに、経済社会学会の共通論題「商品社会の未来」に登壇して研究成果「商品としてのエシカル」を発表した。また消費社会論研究会を開催し、根本志保子「小規模集団の倫理と公共の倫理」と鈴木康治「ゼロ志向消費とゼロ化の快楽」の発表を通じて検討をおこなった。
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デザイン理論
巻: 83 ページ: 1-15