研究実績の概要 |
認知症患者の外因死事例について、昨年度までの調査に加え、新たに死亡場所や自宅からの距離、移動手段などの項目を追加して、法医剖検記録を基に記述疫学的調査を行った。2008年から2017年までの10年間に岡山大学の法医解剖全2,142件の内、病歴として認知症またはその疑いのある事例を抽出し、ここから死因の種類が病死また不明のものを除いた141人の認知症患者について死因、死亡した場所、要介護度などを調べた。平均年齢は82歳、女性は77人、男性は54人であった。死因は溺死が最も多く47件で、次いで焼死で35件、凍死が10件、火傷死が6件となり、認知症患者の外因死では溺水と火事によるものが多いことが明らかとなった。死亡場所は、自宅が54件と最も多く、次いで水域が51件とこの両者で74.5%を占めていた。自宅から死亡場所までの距離は、100m以内のものが76件、100-500mが19件、500-1000mが10件と、自宅から1㎞以内の近隣で死亡していたものが全体の74.5%を占めており、自宅周辺で死亡しているものが多いことが明らかとなった。死亡場所までの移動手段として自転車が7件、自家用車10件(このうち死者自身が運転していたものが8件)あり、認知症症状があるにもかかわらず車両を用いている事例があることが明らかとなった。介護認定を受けていたものは56件あり、最も多い死因は溺死で19件、次いで焼死18件、凍死・火傷死4件、肺炎2件。これに対して介護認定を受けていなかったものは51件で、死因は多い順に溺死で19件、次に焼死12件、外傷性ショック4件、凍死3件となり、介護認定の有無における死因に明らかな違いは認められなかった。これらの研究結果について、2023年2月24日に行われた令和4年度瀬戸内法医診断研究会において,「認知症患者の事故死予防と法医学」と題した演題発表を行った。
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