研究課題/領域番号 |
20K02094
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
伊藤 るり 津田塾大学, 総合政策研究所, 研究員 (80184703)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 家事労働者 / フィリピン / フランス / 移住労働 / ライフストーリー |
研究実績の概要 |
本研究は、パリ在住のフィリピン人家事労働者の就労歴、移動歴、ならびに生活世界について、現地調査で把握することを目的とするプロジェクトだが、初めの2年間は新型コロナウイルスの感染のため調査を実施することができず、手持ちのデータの精査を行った。3年目の2022年度はようやく7月に1ヵ月弱の現地調査を実現できた。成果は大きく3点に分けられる。 (1)家事労働者としての就労歴をもつ者のうち、パリ滞在歴がすでに10から30年に達し、年齢的にも中高年層のフィリピン人移住女性4名に焦点を絞って重点的にライフストーリーの追跡調査を行った。4名とも非正規滞在者としての就労期間を経たあとに正規化を遂げた経歴をもつ。インタビュー調査により、①現時点で家事労働を継続中であるかどうか、家事労働から離れた場合にはどのような他の仕事口が開かれているかといった就労面での変化、②正規化後のパリでの生活世界の広がり、③フィリピンに残る家族との関係の変化、④老後を含めた今後の展望などの各項目について聞くことができた。 (2)個人家庭雇用主連盟(FEPEM)への追跡インタビュー調査を行い、①2022年に施行されたばかりの「個人家庭雇用主と家庭雇用」に関する新しい全国労働協約(2021年3月26日締結)の背景・内容・意義、及び②家庭雇用における働き手の高齢化などを背景とする人材不足(2030年までに80万人が不足するとの予測)へのFEPEMの対応策などについて、状況の把握を行うことができた。 (3)パリの富裕層が住む郊外地域での家庭雇用のあり方について、2件と数は少ないが、雇い主側へのインタビューを行うことで、①申告労働と無申告労働の分布、及び②フィリピン以外の国籍出身の家事労働者の就労実態などについて一定の知見を得ることで、フィリピン人家事労働者の事例を相対化するためのいくつかの手がかりを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年間現地調査ができなかったところ、ようやく1回目の調査を実施できたので、ある程度、遅れを挽回できたと考えている。当初期待したとおりには進んではいないが、新型コロナウイルス感染拡大という非常事態を経たことを踏まえれば「おおむね順調」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染によるフランスへの入国規制が解除されているため、1年の期間延長を願い出、繰越金によって7月に2回目の現地調査を実施する予定である。 調査項目としては、引き続き、①フィリピン人家事労働者、②フィリピン人アソシエーション、③個人家庭雇用主連盟(FEPEM)、④個人家庭雇用主などへの聞き取りを続ける。 調査地点としては、主にパリ地域、また昨年の調査結果を踏まえ、可能であればFEPEMが今後の人材不足を見越しての対策として移住家事労働者に照準した研修事業を見るために南仏の自治体での調査を予定している。同事業のフィリピン人家事労働者への影響の有無を捉えたい。 現地調査のほかは、資料収集、収集データ・資料の整理、分析、執筆などに充てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため、2020年度、21年度と現地調査を実施することができなかったため、1年の期間延長を願い出、繰越金によって次年度当初計画していた現地調査を実施するため。
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