本研究の目的は、パリ在住のフィリピン人家事労働者の就労歴、移動歴、ならびに生活世界について現地調査で把握することにある。新型コロナ感染拡大により、1年延長した最終年度の2023年は第2次現地調査(6月末から7月末)を実施した。主な成果と知見は以下の諸点にまとめられる。 (1)在仏フィリピン人コミュニティ全体に関する実態の把握。この点については、7月初めに開催されたフィリピン人コミュニティの祭典「ピスタ・サ・パリス」の参与観察を基点としつつ、主催側として(a)駐仏フィリピン大使館、ならびに(b)在仏フィリピン人アソシエーション総連合委員会(以下、CGAPF)それぞれのキーパーソンに対するインタビューを実施した。非正規滞在の家事労働者が多いフィリピン人口に関してはフランス側統計も不明な点が多い。したがって、在外フィリピン人保護を任務とする領事館側の認識を一定程度、把握できたことは本研究にとって重要な成果となった。また大使館の便宜により、CGAPF幹部へのインタビューを実施、「ピスタ・サ・パリス」の沿革と近年の変化についてうかがうことができた。さらに、2022年にフィリピン政府が新設した移民労働者省(DMW)によるフランスでのアウトリーチの実際についても現地で観察する機会を得た。 (2)フィリピン人家事労働者の就労歴、移動歴の個別事例の収集。昨年度からの継続課題としてフォローアップ調査を続けるとともに、新たに家事労働者から自営業へと転換を果たした事例などの聞き取りを行うことができた。 (3)個人家庭雇用主連盟(FEPEM)への追跡インタビュー調査。フィリピン人が多く働く家庭雇用の分野で、FEPEMが深刻化する人材不足についてどのように対応しているか、特に移民出自の労働者に対する育成プログラムなどについて聞き取りを行い、今後の研究の示唆を得た。
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