研究課題/領域番号 |
20K02112
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
松浦 雄介 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (10363516)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | コモンズ / 公共財 / 文化財保存制度 / 国際条約 / 共通の遺産 / 全人類の遺産 |
研究実績の概要 |
本研究のテーマは「文化による都市再生とその社会的効果ー旧産炭地の国際比較研究」である。予定していた海外・国内のフィールド調査がコロナ渦によりほとんどできなかったため、文献調査を中心に進めた。文化による都市再生を考えるうえで本研究が重視するのは、「コモンズ/公共財としての文化遺産」という視点である。この考え方の歴史的な成立・展開過程を、フランス・イギリス・日本の三カ国および国際条約を対象に調べた。以下、明らかになったことを記す。 フランスでは、革命期に相次いだ文化財破壊に対し、グレゴワール神父がそれを「ヴァンダリズム」と呼んで非難し、「みんなの財産」である文化財保存を訴えた。その後、ユゴーらがこの視点から文化財保存の世論喚起を試みるが、私有財産権という近代国家の基本原則との抵触が文化財制度を確立するうえで大きな障壁となっていた。イギリスでは、19世紀にラスキンやモリスら文人が文化財保存を主張・推進し、文化財が過去世代と未来世代も含めてみんなのものであるという論理を展開した。日本では明治期から戦前までの文化財保存のなかで、「みんなの財産」という視点が明示的に語られることは稀だったが、敗戦後に捻じれた形で現れた。戦後賠償の一環として文化財接収が中国やフィリピン、オランダから要求されたとき、日本国内の世論から賛成論が少なからず起こった。その理由の一つに、それまで文化財が特権階級の私有物のように扱われて一般国民から乖離し、「みんなの財産」になっていないことが挙げられた。国際条約に関しては、ハーグ陸戦条約で戦争の破壊から文化財を保護することがうたわれたとき、文化財は私有財産という位置づけだったが、第二次大戦後、1954年ハーグ条約や文化財の不法輸出入等禁止条約、世界遺産条約などのなかで、「全人類の文化遺産」や「共通の遺産」といった概念がたびたび用いられるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では2020年度および2021年度に、イギリスとフランスで二度の現地調査および国内(福岡県大牟田市および熊本県荒尾市)で数度の現地調査を行う計画だったが、一昨年度に続いて昨年度もコロナ渦のため海外調査は全く行うことができず、国内調査については一度しか行うことができなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
イギリス・フランス・日本のいずれの国でもコロナ渦にともなう移動制限が緩和されてきたため、今年度の長期休暇期間にイギリス・フランスの調査を行うとともに、国内調査も年度を通じて数回行う。しかし、それでも遅れを十分に取り戻すことはできないことが予想されるため、計画を一年間延長することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では2020および2021年度の海外・国内調査を予定していたが、コロナ渦のため、この2年間ほぼ全く調査できなかったため次年度使用額が発生した。本研究は当初2022年度に完了する計画だったが、一年間延長し、2022および2023年度に調査を遂行し、研究を完了する予定である。
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