本研究課題は、裁判員評議における「再現(reenactment)」実践の解明を目的とするものであった。法実務家の協力を得て実施した模擬裁判、模擬評議の録画を会話分析の手法で分析することにより、次の成果を得ることができた。(1)会話分析において「身体の多層性」と呼ばれるような現象が評議の相互行為にも生じることが確認できた。(2)裁判員は自らの身体を、本研究課題がそれぞれ「再現身体」「仮想身体」と名付けた独特の身体モデルとして用いていた。(3)そうした身体モデルの使用によって、裁判員は被告人の事件当時の行為だけでなく、被告人の知覚経験についてもその再現をおこない、事実認定の推論に用いていた。
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