研究課題/領域番号 |
20K02124
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
大塚 陽子 立命館大学, 政策科学部, 教授 (30368021)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高齢者ケアシステムの持続性 / 北欧諸国 / リソースが少ない状況での「対話」の重要性 / ケアアクター間の綿密な連携 |
研究実績の概要 |
本研究は、北欧諸国で高齢者ケアという行為が社会の中で如何に配分されているのかを国家・家族・市場・コミュニティ等の公私アクターの動態的な関係の変化から問い直すことにより、東アジアへの政策的な示唆を引き出すことを目的としている。 令和4年度は、5~9月にデンマーク渡航が可能になったことで、研究者ネットワークが広がって共同研究の話も進んだ。特に、日本では研究の少ないアイスランドの高齢者ケアやジェンダー研究の専門家、レイキャビク市高齢者ケア部門長や介護ヘルパーらへの聞き取り調査は意義があった。また、デンマーク最大のケア労働者の組合の代表ら数名にも行政との協働に関する聞き取り調査をした。 調査の結果、1)高齢者ケアが公共の責任である北欧でも、2010年代からはサービスが後退し、別居が当然の老親の世話は、主たるケアの担い手ではなくても働く女性の負担となり、老親との同居もみられる。2)コロナ禍で離職したケア労働者は少数だが、業務の増加で労働時間は長くなりつつある。労働組合でもケアシステム破綻への危機感から就労時間の延長を行政と共にケア労働者に勧めている。3)ケア労働者は正規公務員であるが女性が大半である。民間の男性労働者よりもやや低賃金で就労時間が短いため、老後の年金受給額差を労働組合は懸念する。4)訪問ケアが主流でも、高齢者が他者の手を借りないケアが増加している。ICTの活用で訪問回数を減らし、服薬やリハビリの管理を行い、就寝支援ロボットを高齢者自身が操作する。操作は家族も支援する。5)訪問ヘルパーは日本と同様に高齢化している。アイスランドでは、20代の動機の低い層と60代の専門性の高い層にケア労働者が二極化している。6)ケアリソースの少ない現状を乗り越えるには、セクターを超えたケアアクターらが集結し、対等に「対話」を重ねながらケアシステムの持続性に取り組む重要性を両国とも主張する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度(令和4年度)の研究活動の実施計画は、新型コロナウィルスの感染拡大およびウクライナ情勢の影響に伴って、出入国管理および航空便の減便・欠航が相次ぎ、幾度にもわたる変更を余儀なくされた。研究方法もまた、国外研究期間が短くなった分、現地資料収集、現場視察、聞き取り調査が制限された。しかし、デンマーク出張が可能となったことにより、大きな成果はあった。現地調査はデンマークのみ実施できたものの、アイスランド、ノルウェーには滞在許可証発行の大幅な遅延および夏季長期休暇による先方の都合によって、一部はオンライン実施となった。今年度もまた、海外の研究協力者たちとの日本でのシンポジウムの開催が延期となり、調査実施が遅れたため、複数の論文のまとめも執筆途中である。
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今後の研究の推進方策 |
本プロジェクトは今年度で終了する予定だったが、上記のような世界情勢の混乱により、2023年度まで延長した。今後は、「高齢者ケアシステムの持続性をめぐる公私アクターの関係」、ウクライナ情勢に関連して新たに活発な局面を迎えている「社会政策をめぐる北欧の国際協調」の論文化を急ぎ、また、延長を重ねてきた海外の研究協力者らを招聘したシンポジウムを10月に日本において開催する。その後、さらに今後の共同研究の話を進め、まとめ上げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022(令和4)年度は、コロナ禍およびウクライナ情勢によって、海外研究協力者の招聘費用を執行できなかったたため、次年度使用とする。
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