研究課題/領域番号 |
20K02129
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研究機関 | 立命館アジア太平洋大学 |
研究代表者 |
清家 久美 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 教授 (00331108)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 新実在論 / マルクス・ガブリエル / F.W.J.シェリング / 人工知能/天然知能 / 反自然主義 / 神経中心主義 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、社会学を〈存在論/認識論〉の視点から整理し、新たな思想潮流としての実在論的転回が社会学ないしは社会学の方法論にどのような影響を与えうるかである。 2023年度は特にAIの問題について新実在論の視点から社会批判として検討することに専念した。昨今の人工知能は人間の知性の高濃度化傾向が見られる。その人間の知性として人文・社会科学における知のあり方を抽象し検討すると、それは構造主義、構築主義に代表されるようにデカルト以来の主観を前提とし、対象を把握するという構図とそこに付随する人間の認識論による世界の決定というものであった。それらは近代以降の思考様式にも通底し、人工知能に高濃度化しているとも解釈できる。人工知能に対して「天然知能」を提示する郡司は、それを(主観を前提として成立する)外部を措定せずに世界へ直接接触するような知のあり方として人間に本来備わったものであると言う。またM.ガブリエルの主張としては①天然知能の構図と同様に外部を措定せず、F.W.J.シェリングに依拠した「無底」概念により主観の非前提性と世界への直接的接触を提案するとともに、②反自然主義を主張する。後者の反自然主義の立場はドイツ観念論、特にカントの「自由の因果律」を踏襲し、自己決定という精神の自由を擁護するためである。自然主義や科学主義に依拠する「神経中心主義」は人間の精神を脳と同一視することであり、精神の自由の主張のためには反自然主義の立場を取る必要がある。 現在の高度な人工知能の強化は近代以降の人間的思考の徹底化であり、人間の一つの能力としての「天然知能」は忘却され、さらに「精神の自由」という人間の自由な意志を軽視する自然主義、科学主義を推し進めることとなる。人工知能の近代的思考の高濃度化は自ずとこうした事態を許容することになり、そうした課題の発見は新実在論の視点の導入により可能となったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は特にAIの問題について新実在論の視点から社会批判として検討することに専念し、実際に、現在の高度な人工知能の強化は近代以降の人間的思考の徹底化であり、人間の一つの能力としての「天然知能」は忘却され、さらに「精神の自由」という人間の自由な意志を軽視する自然主義、科学主義を推し進めることとなる。人工知能の近代的思考の高濃度化は自ずとこうした事態を許容することになり、そうした課題の発見は新実在論の視点の導入により可能となったと言える。 昨今の人工知能は人間の知性の高濃度化であり、人文・社会科学における知のあり方を抽象し検討すると、それは言語論的転回以降の思想や社会学における構築主義にみられるようにデカルト以来の主観を前提とし、対象を把握するという構図とそこに付随する人間の認識論による世界の決定というものであった。それらは近代以降の思考様式にも通底し、人工知能に高濃度化しているわけである。人工知能に対する「天然知能」は、それを(主観を前提として成立する)外部を措定せずに世界へ直接接触するような知のあり方として人間に本来備わったものであるということがわかった。またM.ガブリエルの主張としては①天然知能の構図と同様に外部を措定せず、F.W.J.シェリングに依拠した「無底」概念により主観の非前提性と世界への直接的接触を提案するとともに、②反自然主義を主張し、後者の反自然主義の立場はカントの「自由の因果律」を踏襲し、自己決定という精神の自由を擁護するためである。自然主義や科学主義に依拠する「神経中心主義」は人間の精神を脳と同一視することであり、精神の自由の主張のためには反自然主義の立場を取る必要があるということがわかった。 以上のように、新実在論の援用により、AIの問題を社会学的に再検討することができ、顕著な成果となったということをもって、本研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の2024年度において追求するテーマは「M.ガブリエルの認識論から新実在論(初期思想)への超克性の現代社会論への援用可能性について」であり、5年間の集大成として本研究は結実される。ポストモダン以降の相対主義の傾向が強い現代社会において、普遍性、絶対性、外部性を含む世界観の希求が現代実在論の出現に関係すると考えられる。社会学においても、言語論的転回以降の構築主義的世界観、方法論は社会学においてはすでに自明的かつ支配的な考え方となっているが、社会学においてもラトゥールを筆頭に、それらの限界とその超克を模索する動きは見られるものの、非常に周辺的な位置づけとされ、社会学そのものにあるいは方法論に大きく影響を与えたわけではない。そこで本研究では、現代実在論の一つである新実在論を提唱したマルクス・ガブリエルの初期思想に焦点を当てることによって、現代社会の世界観や社会学における世界観を批判的に乗り越える可能性を模索する。そこでいう彼の初期思想とは、認識論の限界とその超克のための新実在論への展開である。そのためには、以下の文献を中心に検討することとなる。 1.An den Grenzen der Erkenntnistheorie、2.Mythology、 Madness、 and Laughter: Subjectivity in German Idealism、3.Transcendental Ontology: Essays in German Idealism、以上の主要な三文献に見られるガブリエルの初期思想において、認識論から実在論に至る哲学的経緯を考察し、社会学における認識論をベースとする構築主義の問題点を指摘する。その上で、最終的に新実在論の援用可能性を結論づけることを今後の推進方策とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】次年度使用額が生じた理由として、①延期していたマギル大学でのシンポジウム開催については、ラマール氏がシカゴ大学に移ったため、シカゴ大学でのシンポジウム開催を画策したが、いくつかの支障により、別の場所での開催をせざるを得なくなったために、2023年度に未使用学額が生じた。また、②新潟での方法論的検討のための調査は、役職の関係で多忙となり、調査実施が難しくなったために、2023年度に未使用額が生じた。 【使用計画】2024年度は、①上記のシンポジウムの開催の模索はするが、学会での発表に代替する可能性もある。社会学理論学会、社会学史学会、日本社会学会、西日本哲学学会、社会思学会などの学会にて発表することにより、①のシンポジウムの代替となる最終年度の総括的な位置づけとする。したがって、シンポジウム開催、あるいは学会参加のための旅費が必要となる。また、上記②の調査実施のために調査費、旅費が必要となる。以上2点を使用計画としている。その他文献購入等については、予定通りの使用計画とする。
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