• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実施状況報告書

相互行為における行為の構成――原発避難地域における日常活動の基盤

研究課題

研究課題/領域番号 20K02131
研究機関千葉大学

研究代表者

西阪 仰  千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (80208173)

研究分担者 早野 薫  日本女子大学, 文学部, 准教授 (20647143)
小宮 友根  東北学院大学, 経済学部, 准教授 (40714001)
黒嶋 智美  玉川大学, ELFセンター, 准教授 (50714002)
須永 将史  小樽商科大学, 商学部, 准教授 (90783457)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード行為 / 成田空港反対運動 / 会話分析 / エスノメソドロジー / 原発避難
研究実績の概要

本年度は,この研究課題の主たるフィールドである福島県の原発避難からの帰還地域での新たな調査は,新型コロナ感染症の影響のため,まったくできなかった.一方,成田空港建設計画への反対運動の記録映画を計7本を製作した小川プロダクションの音源が,成田空港空と大地の歴史館に保存されており,それへのアクセスの許可を得ることができ,その整理を行なった.そのなかで,映画に記録されている反対派農民らの会合のデテール(とくにカットされている発言部分)を復元し,相互行為において,地域差や地域共同体がどう再構築され,それが相互行為においてどのような行為として実現するかを分析した.
西阪と須永らは,元の音源を復元することにより,映画において記録されている個々の発言が,映画に含まれない先立つ発言に,明示的にもしくは暗黙裡に,さまざまな言及関係にあることを見出した.議論に参加する他者の声を自分の発言のなかに換骨奪胎しながら,自身の属する地域の特殊事情を訴える正当化の根拠としたり,あるいは,自身の異なる見解を他者の声の拡張として提示するなどの様子が観察できた.議論のなかで異質な者たちが連帯するためのメカニズムの一端をとらえることができた.
黒嶋は,部落集会において,自分たちを指すときに使う言語資源を,前後における異なる言語資源の比較をとおして分析した.とくに「同盟」や「部落」などの一般名詞を特定集合体(特定部落および空港反対同盟)の呼称として(いわば提喩として)用い続けることが,その集合体への帰属性を再構築すると同時に,集合体としての責任・義務を語るための基盤になっているという見通しを得た.
小宮は,部落のリーダーが部落の特定家族への支援を依頼するとき,受益・供益関係や義務・権利関係の様々な交渉をとおして,当該家族に受け入れらやすい形で(例えば,むしろ,その当該家族への依頼として)構成することを見出した.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本年度は,新型コロナ感染症の影響もあり,福島県での現地調査がまったくできなかった.また研究代表者の個人的な事情も重なり,(学会や国際シンポジウムでの研究発表などは一定数行うことができ,かついくつかの原稿の入稿・投稿もできたものの)研究代表者は論文の発表が滞った.本研究課題の主要な方法論である会話分析は,各自の分析能力の維持のために,定期的にインテンシブなトレーニングセッションを持つことが必須である.にもかかわらず(実際にヨーク大学のPaul Drew教授には講師を引き受けていただいていたにもかかわらず),新型コロナ感染症の影響で,本年度は実現できなかった.一方,このような困難な状況においても,研究分担者はいくつかの論文を発表することができた.また,小川プロダクションの成田空港反対運動の記録映画シリーズの音源の分析については,2つの研究報告を,アメリカ社会学会で行なうことができた.

今後の研究の推進方策

成田空港反対運動については,成田空港空と大地の歴史館に,当時20代から30代の若い反対派農民たちの討論(1970年に『壊死する風景』として出版)の音源があり,それへのアクセスが許されている.2022年12月に行なった予備調査で,出版されたものは大きな割愛・編集を被っていることが明らかになっている.この音源について,個々の発言の前後関係上の位置を確認しながら,例えば,若い農民たちが,自分たちの地域共同体について,「闘争する主体」の形成について,あるいは「武装」(抗議行動において農具や角材を手にとること)の意味について,どのようなやり方で語り,そのようなやり方で語ることによって何を成し遂げているのかを明らかにする予定である.それと同時に,福島県の原発避難からの帰還地域における補足的な現地調査を行ないながら,すでに集めたデータを整理し,論文をまとめる.例えば,過去の出来事について語るとき,記憶として語ることと過去の事実として語ることがある.この語り方の違いは,何にきっかけを持ち,何を成し遂げているのか.未来の計画について語るとき,提案として語るときと個人的な考えとして語ることがある.この語り方の違いは,何にきっかけを持ち,何を成し遂げているのか.これらが今後の課題の候補である.2023年度は,本研究課題の成果の一部を7月の国際会話分析学会(ブリスベン)および8月のアメリカ社会学会(フィラデルフィア)で報告予定である(いずれも採択済).
会話分析がこの研究課題の主要な方法論となっている.この間,新型コロナ感染症の影響で,会話分析のトレーニングセミナーがまったく開催できていない.2023年度は,ヨーク大学のPaul Drew教授より3月初めに来日してセミナーを行なうことの快諾をいただいている.成果を論文や報告書として最終的にまとめるために,このセミナーは重要な意味を持つ.

次年度使用額が生じた理由

新型コロナ感染症の影響の影響で,予定していた福島県への調査および会話分析トレーニングのための講師招聘ができなかったため,大きな額が次年度使用額として残った.2023年度は最終年度だが,新型コロナ感染症も落ち着いているため,福島県への補足的な調査および講師招聘にその額を用いる.そのほか,オーストラリアおよびアメリカに複数のメンバーが学会報告に出かける予定である.

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (6件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] 実践の論理を描く2023

    • 著者名/発表者名
      小宮友根
    • 雑誌名

      実践の論理を描く(小宮友根・黒嶋智美編)

      巻: 1 ページ: 1-19

  • [雑誌論文] 質問に対する2つ(以上)の応答2023

    • 著者名/発表者名
      早野薫
    • 雑誌名

      実践の論理を描く(小宮友根・黒嶋智美編)

      巻: 1 ページ: 24-40

  • [雑誌論文] 合意形成における経験,知識,権利2023

    • 著者名/発表者名
      黒嶋智美
    • 雑誌名

      実践の論理を描く(小宮友根・黒嶋智美編)

      巻: 1 ページ: 59-76

  • [雑誌論文] 再現身体と仮想身体2023

    • 著者名/発表者名
      小宮友根
    • 雑誌名

      実践の論理を描く(小宮友根・黒嶋智美編)

      巻: 1 ページ: 140-157

  • [雑誌論文] 計画はいかにして修正されるのか2023

    • 著者名/発表者名
      須永将史
    • 雑誌名

      実践の論理を描く(小宮友根・黒嶋智美編)

      巻: 1 ページ: 95-113

  • [雑誌論文] 同定・観察・確認作業の構成における「見ること」の相互行為的基盤2022

    • 著者名/発表者名
      黒嶋智美
    • 雑誌名

      外界と対峙する(伝康晴・前川喜久雄・坂井田瑠衣監修)

      巻: 1 ページ: 150-168

  • [学会発表] Experiencing Space: Two Uses of Japanese Proximal Spatial Deictic Expressions2023

    • 著者名/発表者名
      Aug Nishizaka
    • 学会等名
      The Centre for Advanced Studies in Language & Communication (the University of York)
    • 招待講演
  • [学会発表] Invoking the third-person perspective: Distribution of deontic responsibilities in the construction of an assertion2022

    • 著者名/発表者名
      Satomi Kuroshima
    • 学会等名
      American Sociological Association
  • [学会発表] Ideas Distributed among Multiple Voices: Discussions in Protests against the Construction of Narita International Airport2022

    • 著者名/発表者名
      Aug Nishizaka, Masafumi Sunaga, Kotaro Sambe
    • 学会等名
      American Sociological Association
  • [学会発表] Seeing and touching in interaction: Doing "inspecting" and action construction2022

    • 著者名/発表者名
      Aug Nishizaka
    • 学会等名
      The importance of touch during the time of covid: An international symposium
    • 国際学会 / 招待講演

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi