研究課題/領域番号 |
20K02134
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
渡邊 登 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (50250395)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 公共圏 / 再生可能エネルギー / 持続可能なコミュニティ / 脱原発 |
研究実績の概要 |
本研究では原発立地地域における脱原発へのソフトランディングの可能性を,原発再稼働同意(不同意)主体として立地地域である柏崎市において多様なステークホルダー(推進・反対・中間派)への詳細な聴き取り調査と住民への世論調査を通じて探るとともに、他方で同県の原発周辺地域としての新潟市において市民主体の再エネ事業を展開している「おらってにいがた市民エネルギー協議会」(以下「おらって」)への参与観察によって、再エネの導入を地域外の資本(外来型・誘致型開発)ではなく地域主体による展開を、特に原発立地県において可能にするための条件・課題を提示することを目的としている。本年度は、前者については、推進派の重鎮であるB氏が主導する柏崎地域の将来像を見据えた議論・実践の場として立ち上がったプラットフォーム(SDGs柏崎市民会議、以下「会議」)の会合等への参与観察を前年度に引き続いて行った。「会議」の構成メンバーは地元の産官学及び各種団体・メディアのリーダーを一定程度包括しているが反対派は含まれておらず、同会議のこれまでの脱炭素とSDGsを前提としつつ地域社会の将来像についての議論を踏まえると、ポストフクイチを前提としつつも、脱原発の方向へ舵を切ることについての可能性を見いだすことは現状では困難である。後者については、「おらって」の週1回の運営委員会、月1回の定例会、各種イベントへの参与観察を継続し,発電事業として従前の太陽光発電に加えて、中山間地域における小水力発電、新潟市郊外でのソーラーシェアリング等を地域社会の多様なステークホルダーとの協働によって展開する過程を、そこで各主体の描く将来像のズレや思惑、利害等で生ずるコンフリクトへの対応に焦点を合わせて明らかにし、前年度に上梓した「おらって」についてのモノグラフに加筆修正を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度と同様に人文社会科学系(人文学部、法学部、経済学部、教育学部、創成学部を統括)の副学系長としての学系学務全般作業(昨年度会議数100回超)に加えて、本年度は同学系の研究科の専攻代表も務めることとなり、前年度以上に学務関連用務で忙殺されたために当該年度実施予定計画を大幅に縮小せざるをえなくなるとともに、併せて新型コロナウィルス禍で前年度より実施を延期してきた柏崎市民への世論調査を本年度の第8波の感染拡大で再度延期を余儀なくされ、前年度に引き続いて柏崎地域での推進派の重鎮B氏が主導する脱炭素とSDGsをキーワードとした議論・実践の場としてのプラットフォームへの参与観察、及び新潟市内での対象団体(「おらって」)への参与観察に調査研究に限定せざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
①前年度に引き続いて、「研究実績の概要」で説明したプラットフォームへの参加観察を進めるとともに、あらためて地域リーダーに現段階での地域社会の将来像についてインタビューを行い、原発立地地域の脱原発へのソフトランディングのプロセス選択の可能性(あるいは不可能性)とそのための諸条件を探る。 ②「現在までの進捗状況」で既述したように、前年度の実施を延期した柏崎市民への住民意識調査を行い、「『ポストフクイチ社会』に向けた原発立地県における地域公共圏構築についての研究」で明らかとなった、原発への「反」「脱」「維持」軸(調査項目では原発問題関連項目及び投票行動によって構成)と、コミュニティの持続的「発展・再生」軸(生活意識、コミュニケーション行動、コミュニティ意識・行動、政治意識・行動によって構成)で住民類型の分布変化と2020年に再稼働反対派の候補に対し圧倒的な得票数で再選され、その正当性が確認されたと思われる桜井雅浩市長の「柏崎市地域エネルギービジョン」を支持する住民層との(仮説的に提示した)照応関係を住民意識調査で明らかにする。 ③2014年以降継続して行っている再生可能エネルギー事業体(「おらって」)の運営委員会(月2回ないし3回)、定例会(月1回)イベント、シンポジウム等々への参与観察を更に継続して、「おらって」についての今年度段階までの活動意義、さらなる可能性と課題を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
既に【研究の進捗状況】で説明したように、2022年度に予定していた柏崎市民対象の世論調査を2022年度の実施予定に変更したため。 また、新型コロナウィルス感染拡大状況のなかで、2022年度に計画していた地域リーダーへのインタビュー調査を予定通りに行うことが困難となったため、その分の旅費を次年度使用額に回し、今年度の調査旅費に充てることになった。
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